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(公理)①:医療人の資質(その2)

医療人の資質を考える際、現在の日本の医療の現状を踏まえることは大切である。キーワードとしては「高齢化社会」「少子化社会」「地域医療の重視」「全人的医療の重視」「生活習慣病、とりわけ癌の克服」「高度先進医療の充実」「ターミナルケアの見直し」「産婦人科・小児科の不足」「医師不足・医師の偏在」「医療格差」「ES・iPSを始めとする再生医療の発展と倫理的問題」等々が挙げられる。こうした現状に対して、ひとつひとつ自分の言葉で考えてゆくことは、自分の医師としての資質を磨き上げるためには必要なプロセスである。
 しかしそれ以上に大切なことは、自分の親が医師であればその姿をきちんと見ること、自分の親が医師でなければ、自分の住んでいる地域の医療の現状をきちんと見ることである、と私は思う。親が医師であれば、その親は既に「医師とは何か」を自分の人生で実践している者である。その姿を見、話を聞くことは、「医師とは何か」を本で学んだりテープレートとして暗記するよりも、はるかにレベルの高い情報と自覚とを、生徒に与えるはずである。まずは一番身近な師である「親」から、医療人としての資質を学ぶことを、生徒は心がけるべきであると思う。また医師でなくとも、「親」は社会の中で働く一人の人間として、相応の問題意識と責任感とを持って働き、生徒を食わせている。その姿をしっかりと目に刻み、話を聞くことで、やはり医療人の資質は磨かれるのである。前回述べたとおり、医療人の資質とはつまるところ「人間性」であって、その人間性は職業を問わず求められているものだからである。
 対照的な例をひとつずつ挙げることにする。いずれも推薦対策での話である。ある女の子に「父親の尊敬できるところは何か」と聞いたところ、「特にない」という返事が返ってきた。「では父親は地域でどのような医療活動を行っているのか」と聞いたところ、「よく知らない。興味がない」という答えであった。要は父親が嫌いだったのである。こうした反応は推薦試験では致命傷となるので、必ず父親から話を聞くようにと念を押したが、彼女は結局話を聞かずに推薦試験に臨み、合格できなかった。将来の夢が「父親と同じ町で、父親とは違う科の病院を開業すること」では、やはり面接官の心象は良くなかったであろう。もちろん、彼女にもいろいろな事情があって、そうした反応をせざるをえなかったのだろうが、面接官の視点から(あるいは論文の採点者の視点から)見れば、やはり「人間関係に難あり」という判断を下すしかないケースである。
 もう1人の女の子は「将来は地域で父親の跡を継ぐ」という明確な目的を持っていた。地域の人口、高齢者の割合、どんなことで困っているのか。そして父親がどんな医療活動を行い、どれくらい地域の人々と関わり、どういう点が尊敬できるのか。さらには将来自分がその地域でどんな医療を行いたいと思っているのかを、全て答えることが出来た。化学に難のある生徒であったが、他の先生の予想に反して彼女は合格した。医療人としての資質が十二分にあると判断されたのだろう、と私は考えている。
 一回の受験で5・6大学の試験を受ける(つまりは地元以外の大学も受験する)生徒にとって、地元の医療の現状だけを知っても意味がない、と考えるかもしれないが、一つの事柄をきちんと知ろうとする、という問題意識そのものが、どこでも通用するような医療人の資質を示唆しているのである。親の姿を見、話を聞くこと。資質を養うには、それが一番である。
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玄武庵

Author:玄武庵
日本の片隅で予備校講師をしながら旺文社(入試問題正解)・教学社(赤本)等で作問・解答・解説等の仕事をしています。小論文は自分の頭で考えて書くことが一番大事ですが、その際の参考にしてもらえるとうれしいです。頑張ってください。(※コンテンツはすべて無料です)

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