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(公理)①:医療人の資質

 医学部が通常の学科試験以外に「小論文」と「面接」とを「試験科目」として課す目的は、「医師」という職業が通常の他の職業よりも「高い倫理性」や「強靭な精神力」を要求される職業である以上、「医師」を養成する機関である医学部の入試に際して、そうした「医師としての資質」を事前に確認しておく、ということにある。
 では「医師としての資質」とは何なのか。それを一言で言えば「人間性」なのであろう。しかし「人間性」とはもちろん「人間」の性であるから、「人間性」とは人間としての適切な性質、ということになる。つまり医学部は医師としての特別な性質を求めているわけではなく、人間としての適切な性質を求めている、と言える。そこでまずは「人間性」に該当するものを以下に具体的に列挙してみる。たくさんあるので数字ではなく黒丸(●)で示すことにする。
 ●他者の生の持つ尊厳を理解し、尊重する能力。
 ●人間としての対等性を踏まえた上で、他者と接する能力。
 ●他者の不安や痛み、悲しみをきちんと受け止められる感受性・共感力。
 ●その不安を言語によって解消できる対話力。
 ●社会の中での自己の役割をきちんと理解できる想像力。
 ●役割を理解した上での高い職業意識・使命感。
 ●他者の幸福を自己の幸福とする博愛の精神・善良さ。
 ●苛酷な学習に耐えられる忍耐力・向上心。
 ●物事や自他の未来に対する前向きさ・明るさ・積極性。
 ●不測の事態に対処できる冷静さ・冷静な分析力。
 ●方針を決定する決断力。その決定に対する責任感。
 ●自己の能力に対する自負と謙虚さ。
 ●行為を行う際の他者に対する誠実さ・良心。
 ●他者の幸福のために自己の能力を惜しみなく使用する無欲さ。
 ●自己の人生を他者のために捧げることを自己の生き甲斐とする奉仕の精神。
おおよそこれらが「人間性」という言葉で考えられていることの中身である。
 こうした要素を、普通の人間は多かれ少なかれもっているものであるが、医師においては、これらがとりわけ高いレベルで要求されていると考えられる。それが何故なのかを考えるために、医師という職業のもつ特殊的な条件を列挙してみることにする。医師の職業の特殊的な条件とは、
  ①:人間を相手にし、その病気や怪我に対して直接関わる職業である。
  ②:器具や薬剤を使い、人間の身体や精神に対して変化を加える職業である。
  ③:人間の身体的・精神的生に対して直接影響を与える職業である。
  ④:治療活動を通して、個人の人生に幸福を与える職業である。
  ⑤:逆に言えば、個人の人生に不幸(死を含む)を与えるリスクを伴う職業である。
といったものである。通常はこれらをまとめて「人の命に関わる」と言っている。人の命の固有性と聖性(Sanctity Of Life)という点から考えると、通常の職業では上記①から⑤のような権限が、他の職業には与えられていない。職業という条件を外して上記の行為を行えば、まずその人間は「犯罪者」として扱われることは間違いない。たとえ④であっても、医師免許を持っていなければ犯罪と見なされる。高い技術力や知識とともに、「高い人間性」があると認められるからこそ、医師は上記①から⑤の行為が認められるのである。
 医系小論文は、1人の生徒が、将来日本の医療を背負う人間として、黒丸(●)で示したような人間性を高いレベルで持っているかどうかを、本人の言葉、つまり「論文」を通して確認しようとする。だから論文は、受験生の「人間性」の証明となっている。もちろん、受験生を含め、どのような人間も上記に挙げた人間性を余すことなく持っていることなどありはしない。だが、医療人として「良くあろう」と思っている人間なら、設問に答えるプロセスの中で、こうした人間性の「片鱗」を見せる。それが見えれば、採点者はその論文を評価したい、と考えるのである。
 だから、良い医系小論文が書けるようになるには、まず考えとして、行動として、生き方として、「人間性を磨く」ことが一番大事なのである。仮に日常生活がどんなにだらしなくても本当は構わないが、自分が医師として振る舞う際には、誰よりも立派であろうとする。そうした気持ちをもって問題を見て、考え、言葉にする心構えが大切である。
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玄武庵

Author:玄武庵
日本の片隅で予備校講師をしながら旺文社(入試問題正解)・教学社(赤本)等で作問・解答・解説等の仕事をしています。小論文は自分の頭で考えて書くことが一番大事ですが、その際の参考にしてもらえるとうれしいです。頑張ってください。(※コンテンツはすべて無料です)

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