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(大前提)①:読解の重要性

 医系小論文は「課題文型」「テーマ型」「資料分析型」の三つに大きく分類されるが、いずれの型においても「読解」は重要である。課題文型では「課題文の読解」と「設問文の読解」が「読解」であり、テーマ型では「テーマの読解」が「読解」であり、資料分析型では「資料の読解」と「設問の読解」が「読解」となる。そんなことは当たり前だと考える人もいると思うが、このことがきちんと分かっていない生徒は案外多い。なぜなら「読解」とは「ただ読む」ことだと勘違いしているからである。
 「読む」とはいったいどういう作業であるか。簡単に言えば「意図を理解する」ということである。「課題文型」の小論文を例に挙げてこのことを説明してみる。上記に述べたように、課題文型の小論文では「課題文」と「設問」の読解を行う。仮に「課題文」の読解がきちんと出来ていたとしても、「設問」の読解がきちんと出来ていなければ、おそらく出題者の要求する小論文を書くことはできない。なぜなら「設問」とは「出題者の要求、指示、命令」であり、これらを正確に把握していなければ、課題文を正確に処理することが出来ないからである。
 小論文を書くという作業は、料理と同じで「レシピ」が必要である。目の前にある材料や調味料をどれほど正確に理解していたとしても、それをどのように用いるべきなのかという「レシピ=指示」をきちんと確認しなければ、「カレー」を作れと言っているのに「シチュー」を作ってみたり、「カレー」であっても不味いシロモノを作ってしまうこともある。私の経験則であるが、生徒はこの手の間違いをよく犯す。
 例えば「設問の指示」ひとつをとっても、「思ったことを書きなさい」「考えを述べなさい」「自分の意見を述べなさい」という単純なものから「どちらかの立場にたって自分の意見を述べなさい」「要約した上で、自分の考えを述べなさい」「本文を踏まえた上で、どうすればよいのかを述べなさい」といった、少し複雑なものもある。それに加えて、「本文とは別の具体例を提示した上で」「自己の体験を踏まえながら」「対立意見に言及しながら」というオプションがつく。またそれとは別に、「課題文を踏まえて○○について述べなさい」という別個の指示が出ている場合もある。こうした様々な指示の組み合わせによって、出題者は「今回の課題文を通して答えて欲しいこと」をかなり具体的にオーダーしていることが多い。生徒はこうした「設問の意図」をまずはきちんと読解するよう心がける必要がある。
 そしてまた、こうした「設問の指示の正確な読解」が出来ていなければ、そもそも課題文を正確に読解することも、実はできていないのである。「設問の指示」とは、言ってみれば「課題文の読み方、視点の提示」でもある。そうした指示によって視点が限定されるからこそ、課題文から適切なポイントを見出し、妥当な解答を作ることが可能になるのである。そうしたプロセスを抜きにして、仮に課題文を正確に読解できたとしても、それは単に「自分の目で見た」だけのことであって、設問の作成者が求めている見方で読めたことにはならないのである。
 だから本来、課題文型の小論文なら、先に設問文を読んでその意図を理解し、その後に課題文を読んだ方が、論文作成に関しては安全かつ確実である。しかし実際には、生徒は「設問文」を適当に読み流し、「課題文」を自分なりに読んで、「設問文」の再確認をすることも無く、適当に論文を書いては逸脱する、というパターンが非常に多いのである。
 しかし、確かに課題文型ならそうであったとしても「テーマ型」の論文に「読解」など必要ないだろう、と考える人もいるだろう。テーマについての知識の有無ならともかく、例えば「混合診療について」のどこを読解すればよいのか、と思う可能性もある。だが私にとっては、こうしたテーマそのものがれっきとした「設問」であり、先にも述べたように「設問」とは「出題者の要求、指示、命令」である以上、きちんとした読解が必要だと思っている。
 具体的に説明する。「混合診療」についての小論文が要求されている場合(設定字数600字)、私ならまず「定義」「メリット」「デメリット」「自己の主張・意見」「その理由」「結論・展望」の全てを書く必要がある、と考えるし、現時点での新聞の論調や日本医師会の指針、医師としての生命倫理についての基本的な姿勢を踏まえて「慎重であるべき」もしくは「慎重に進めるべき」という立場で自己の主張や意見を展開しなければならない、と考えるだろう。ならば「メリット」「デメリット」の比率についても「デメリットやや多め」となるだろうし、「慎重に進めるべき」なら「進めるための条件」も述べる必要がある、と考えるだろう。そしてそうやって論文を構成してゆく際に、「誰の利益を最も重視するか」という視点の確定もする必要があるし、日本の医療の目指す理想と現実の差異も考慮に入れたいと考えるだろう。私はこれらの作業を「読解」と呼んでいる。
 ただ漠然とテーマを眺めて、思ったことをつらつらと書いた論文と、こうした「読解」を踏まえて書いた論文では、当然質的に大きな差が出てくる。その意味で、他の生徒と比べて「頭ひとつ」抜ける論文を書きたいと思うのであれば、どのような短い文章でも、ただのテーマでも、きちんと読解して欲しい、と思うのである。
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玄武庵

Author:玄武庵
日本の片隅で予備校講師をしながら旺文社(入試問題正解)・教学社(赤本)等で作問・解答・解説等の仕事をしています。小論文は自分の頭で考えて書くことが一番大事ですが、その際の参考にしてもらえるとうれしいです。頑張ってください。(※コンテンツはすべて無料です)

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