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(大前提)②:解答の切り口を1つに絞らない

 ある課題なりテーマが与えられた時、論文の初心者は(もしくは考えるのが面倒臭い人は)解答を自分で考えるのではなく、「正しい解答」をどこかからさがして、それを覚えておきたい、と思いがちである。その理由は、初心者であれば自分の考えたことが正しいという自信がないからであろうし、考えるのが面倒臭い人は「正しい解答」があるのに自分でいちいち考えるのは労力の無駄である、という「合理的判断」を下すだろうからである。また、そうした生徒の心理状況を見越したかのように、巷では「よく出るテーマと模範解答集」のようなものが流布しており、暗記しやすいようなポイント説明や、書く順番までを指定したテンプレートまで存在する。
 しかし、昨今の医系小論文の出題傾向を踏まえれば、そうした「典型的解答」では処理できないものが圧倒的多数であるということも事実である以上、せっかく覚えた「正しい解答」を使う場所がない、という意味で「覚えた方が損である」という「合理的判断」もまた可能なのだと思う。また覚えるために使った参考書が同じであれば、それを覚えて書いた生徒の解答もまた似通ったものとなるため、本番の試験の際に、もし採点官が非常によく似た解答を3つ以上見た場合には、その解答が「自分の考えた答え」ではないことを見抜かれてしまう可能性もある。場合によっては、それらは減点されてしまうかもしれない。そうなったらせっかく覚えた「正しい解答」も無駄である。つまりどこかの解答を丸暗記することは「合理的」ではない。
 もちろん、そうした「正しい解答」も自分のフィルターを通し、自分なりに納得したものであれば「自分の解答」と呼んでよいはずである、という考えもあるし、それは正しい。ただ、そういう人間は基本的にテンプレートのような解答をそのまま書いたりはしない。必ず自分の考えになるような「アレンジ」を加えるものである。だから物真似のような解答にはならないし、「自分らしさ」をどこかに匂わせている。それは採点慣れしていれば大体分かる。
 まずは、課題なりテーマと自分自身とが、正面から向き合うことが大事である。それから、どう答えを出すかを、まずは自分で考える。答えの出し方ひとつをとっても、「肯定」「否定」「肯定と否定」「肯定>否定」「肯定<否定」と色々ある。また課題の中に2つの異なる立場の提示があれば「両方肯定」「両方否定」「どちらかを肯定」「どちらかを否定」「第3の立場の提示」などが考えられる。医師と患者との意見が出てくる場合、どちらの立場にたってどう答えるか、といった問題も出てくる。そうした解答の「多様性と可能性」をまずは頭の中でいくつか想定することが、論文を奥深いものにするためには一番大事である。
 その中で「今回の課題・テーマ」に対してどういう答え方が一番妥当なのかを、それぞれ考えていかなければならない。その際に必要になってくるのが、以前に述べた「医療人の資質として」とか「地域医療に従事する前提で」といった函数なのである。そうした函数を基準にして考えれば、答えは自分自身の力である程度導き出すことができる。少なくとも医系小論文は高校卒業程度の思考力があれば妥当な解答が自力で書けるようにできている。だから初心者だからといって正解が書けない(もしくは何も書けない)わけではないし、考えるのが面倒臭いと思っても、実はそれほど労力を要するわけではない。覚える方がよっぼど面倒である。
 まれに、本当に全く何も書けない生徒もいる。そういう生徒は「どう書けばよいのかが全く分からない」と口々に言う。原因として考えられるのは「日本語で考える習慣が全くない、ほとんどない」か「当事者意識を持って物事を考える習慣が全くない、ほとんどない」かのいずれか、もしくはその両方である。前者の生徒に対しては「思ったことを言葉の形で固定化する」訓練を行う。本当は思ったことは「言葉」の形にしないと「思ったこと」にならないのであるから、彼らが思ったことは本当は思ったことではない、ということを理解させ、「言葉で考える」という習慣を定着させると、だんだん書けるようになる。後者の生徒に対しては「当事者意識を持って考える」訓練を行う。この世の中で起こることは全て自分に関係している、という前提で、「君はどう思う?」「君ならどうする?」と質問を続けるのである。自分が考えたところで何も変わりはしない、と考えるかもしれないが、自分が自分のこととして何かを考え、意見を持つことは、なにより「自分が変わる」ことに他ならないのである。そしてそうした自己変革への欲望(それを「好奇心」とも「器を広げる」とも言う)を持った人間が、医療人としての適性を持った人間であると見なされるのである。
 考えを固定化せず、複数の切り口の中から自分の居場所を考える。そういう構えが論文の重みになり、自分自身の重み(=人間的魅力)になってゆく。そうした意識を持つことが重要である。
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プロフィール

玄武庵

Author:玄武庵
予備校講師をしながら旺文社(入試問題正解)・教学社(赤本)・Z会(実戦模試)等で作問・解答・解説等の仕事をしています。小論文は自分の頭で考えて書くことが一番大事ですが、その際の参考にしてもらえるとうれしいです。頑張ってください。(※コンテンツはすべて無料です)

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