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【小論文解答】:2018年/東北医科薬科大学/医学部【解説付き】

 人間が人間である限り、犯罪被害者、加害者の人権は守られなければならない。その際の人権とは「個人としての尊厳を損なわれない権利」のことであり、具体的には生存権・プライバシーの権利などが挙げられる。犯罪加害者が自己の行為によって重傷を負った場合に逮捕よりもまず治療の方が優先されるのは、犯罪者であったとしても「人間」である限りは「人権」を持ち、その生命の維持は何より優先されなければならないからである。
 しかし昨今ではインターネットやSNS等の普及により犯罪被害者・加害者問わず個人情報が容易に暴露されることが多くなっている。犯罪被害者は自分がそのような被害に遭ったことを人に知られたくないことも多いはずだが、人は無邪気にそのプライバシーを暴き、当事者に二次的な被害を与える。確かに人間には「知る権利」もあるが、それは「知られたくない権利」との関係で調整されるべき権利であるという自覚が重要である。
 また私たちは「犯罪者のくせに」「犯罪者なのだから」という考え方で、加害者の人権を軽視しがちであるが、加害者は罪を犯すことで人間でなくなるわけではない。冤罪の可能性があるからではなく、実際に罪を犯していても、人間である限りは人権は守られなければならないのである。医師という仕事は、治療行為において、こうした考えを最も重視しなければならない職業である。私もそのことを肝に銘じて医師として生きていきたい。(594字)

【解説(解答のポイント)】

1:人間が人間である限り、その人権は守られなければならない。設問で「加害者の人権保護」が取り上げられているのは、私たちが一般に「加害者」と「人権」とが結び付きにくい思考を持っているからである。「加害者に人権などない」という言い回しがSNS等でよく流れてくるが、「人権」は人間に与えられた「自然権」であって、かつ現在のほとんどの「法制国家」によって認められているものなので、人間から人為的に「人権」を剥奪することは(裁判以外では)基本的に不可能である。

2:しかし「加害者は被害者の人権を奪ったのだから、やはり相応にその人権はある程度剥奪すべきではないか」という考えもあるが、繰り返しになるがそれが可能なのは「裁判」以外にはない。なぜそれが可能なのかについては「法と社会」に関する面倒な議論が必要なので今回は省略するが、この点はきちんと押さえておく必要がある。

3:また犯罪被害者にせよ加害者にせよ、民衆には「好奇心」があり、被害者や加害者に関する情報を知ろうとする。昔はインターネットやSNSがなかったので、知ろうとしても知ることは出来なかったが、現在ではかなり詳細にその情報を知ることができる。またマスメディアもそうした「消費者(視聴者)の好奇心」を前提にして(=つまり言い訳にして)、執拗に被害者・加害者のみならず、その親族をはじめとした関係者の情報を発信しようとする。その際には「情報を明らかにする」ことのみならず「マイクを向ける」「自宅の映像を流す」といった行為が既に「人権」を侵害しつつある、ということを自覚しなければならない。

4:医師という職業には「歓待の原則」がある。病院に入ってきたものは誰であっても、自己の職務である「治療行為」を行わなければならない、というのがその内容である。お金のない浮浪者であっても、ヤクザであっても、犯罪者であっても、みな平等に治療を行う。それは彼らが「人間である限り人権を持っている」からである。人間としての尊厳は、その地位や身分、過去の来歴、現在の境遇によって左右されることはない。京都アニメーションへの放火で多くの方々を殺傷した犯人にも「人権」がある以上、医療機関は治療を行わなければならないのである。こうした点を踏まえて記述を行う。
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玄武庵

Author:玄武庵
日本の片隅で予備校講師をしながら旺文社(入試問題正解)・教学社(赤本)等で作問・解答・解説等の仕事をしています。小論文は自分の頭で考えて書くことが一番大事ですが、その際の参考にしてもらえるとうれしいです。頑張ってください。(※コンテンツはすべて無料です)

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