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【小論文解答】:2019年/東北医科薬科大学/医学部【解説付き】

 義務と権利とは表裏一体の関係性を持つ。権利を得る人は義務を負わなければならないし、義務を放棄した人に権利は与えられない。例えば現役で合格できなかった者は勤勉な学習という義務を確約することによって浪人する権利を親によって承諾される。そして浪人の途中で勤勉な学習という義務を放棄すれば、その人はもはやそれ以上浪人する権利を親は認めないだろう。権利とは義務の行使によって社会から贈られるものなのである。
 医療の世界においても義務と権利の関係は同じである。医師は患者の病気や怪我の度合いを確認するため、患者の身体を侵襲し、薬物を投与する処方箋を書く権利を持っているが、その権利を行使するためには、医学に関する知識と技術を数多く有し、更新し続ける義務を負わなければならない。医学部での勉強はそのための基礎であり、卒業後の研修は実例を通して学ぶための修業である。よって医師は自己の職業上の権利と義務について十分に自覚し、高い職業意識を持って医療活動を行わなければならないと私は思う。
 一方、患者の側にもそうした意識は必要である。自己自身の健康管理には全く努力を払わず、その結果病気になった際に医療の恩恵を受ける権利を持つかというと、必ずしもそうではないだろう。「予防医学」とは医療の恩恵を受ける権利を承諾されるための人々の義務であるとも言える。そうした自覚を促すことも、医師の大きな仕事であると考える。(592字)

【解説(解答のポイント)】

1:「医系小論文」は文系の小論文とは異なり、医療につながらない単純な考察は求められていない。「義務と権利の関係性」というテーマは非常に抽象的で、一見医療とは全く関係がないように思われるが、実際には「医療人の資質」や「医師と患者の関係」と繋がっているはずである。「出題者はなぜこのようなことを(医師を目指す)自分に問うのか?」という問題意識を持ってテーマを眺めれば、そこに何らかのヒントが見えてくるはずである。

2:そのあたりの意識を持たずに漠然とテーマと向き合うと、「医療人の資質」とは関係のない、時事問題への考察やエッセイ風の思いつきの羅列に終始することになるが、論文としては「焦点のずれたもの」として処理される。「実際の得点とは無関係なのでその場で思ったことを適当に書けばよい」といったアドバイスをする業者も存在するが、それは誤解である。一次試験の得点がボーダーすれすれの場合、最終的に合否を決めるのは「小論文」と「面接」である。「小論文」と「面接」で求められているのは、「一次試験の点数的にはギリギリだが、果たしてこの生徒を医学部に入れるべきかどうか」が分かるような何らかの「自覚」の表明なのである。

3:中世ヨーロッパにおける医療行為は、神の仕事(人を救う)を現世で代替するために神に呼びかけられ、神によって与えられた神聖な権利であった。よって医療行為を行う者は、神との約束を果たすための「義務」を負ったのである。それと同じことを「人間・社会」に対して負うのが現代の医師だ、という認識を持つことが求められているのである。
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玄武庵

Author:玄武庵
日本の片隅で予備校講師をしながら旺文社(入試問題正解)・教学社(赤本)等で作問・解答・解説等の仕事をしています。小論文は自分の頭で考えて書くことが一番大事ですが、その際の参考にしてもらえるとうれしいです。頑張ってください。(※コンテンツはすべて無料です)

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