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【小論文解答】:2007年/愛知医科大学/医学部/本試験②

 私は課題文の意味を、生きる意味について考える機会と時間を与えてくれた癌に感謝しているのだ、と解釈する。私たちは日頃生活している時には、自分が生きていることを当たり前であると考えるし、これからもたぶん生きているだろうと楽観している。そして家族とのつながりや周りの人とのコミュニケーションも、その重要性や価値をあまり感じることなく、そんざいに、時には邪険に扱ったりする。しかし癌になった場合、それはどんなに早期で軽いものであったとしても、その延長上に「死」を意識させる。ましてや重症でもはや治る見込みの無い場合にはなおさら死は身近に迫ってくる。もちろんそれは恐ろしいことなのであるが、脳卒中や心臓発作や突然死とは異なり、癌の場合にはこれまでのとは違った目で人生を振り返り、当たり前だと思ってきた自分自身の命、そして周りで支えてくれた多くの人々に対して、感謝の気持ちを持つだけの時間と余裕があるのである。そして課題文の話者は、そのことに対して神様に感謝したのだと私は解釈したのである。
 200年長生きする亀であっても、15日ほどで命を終えてしまうバラの花であっても、生まれていつかは無くなるという意味では変わらない。人間もまたそうした時間的な制約の中である時に生まれ、命を終える仲間の一つである。そうした有限性を自覚し、これまでの自分の人生を振り返り、そして「よかった」と思えること、つまり自分の人生を肯定できることは、何にも増して尊いことである。そうして納得の行く死を迎えられることは、納得の行く生を生き切ることでもある。これまで自分を支えてくれた人々に感謝し、そうした人々の中で自分が生きられたことを神様に感謝する。そのための時間を与えてくれた癌は、単なる死神の使いではなく、神から与えられた最後の贈り物となるのである。そうした思いを込めて、話者は「癌にしてくれてありがとう」と言ったのだ、と私は考えた。(797字)

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玄武庵

Author:玄武庵
日本の片隅で予備校講師をしながら旺文社(入試問題正解)・教学社(赤本)等で作問・解答・解説等の仕事をしています。小論文は自分の頭で考えて書くことが一番大事ですが、その際の参考にしてもらえるとうれしいです。頑張ってください。(※コンテンツはすべて無料です)

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