尊厳死とは、患者自身が自己の尊厳を守れると考えられる死のことで、その内容は患者個人によって異なる。末期の患者に対する医療的アプローチには、延命・消極的安楽死・積極的安楽死の3つが想定されるが、日本においては積極的安楽死が認められておらず、一般的には延命か消極的安楽死かの間で、患者自身が選択することになる。患者がいかなる選択を行おうと、医師はその意志を尊重し、全力でケアに当たることが求められる。
しかし、ターミナルケアにおいて重要なことは、死に方の選択を尊重することだけでなく、死に至るまでのプロセスを、充実した状態で過ごせるようなサポートを行うことであると私は考える。なぜなら「死」とは瞬間的な現象ではなく、それを自覚した瞬間から実際に死ぬまでの「終わりの生」の生き方であると言えるからである。残り少ない1日1日を心穏やかに納得して過ごせるということが、「尊厳死」の本当の意味であると思う。
まず身体的な側面で考えれば、末期の患者にありがちな激痛を緩和することが重要である。痛みをある程度緩和することが出来れば、精神的苦痛の大半からも解放される。患者は穏やかな気持ちで日々を過ごすことが出来るのである。また、死を在宅で迎えたいと考える患者に対しては、家族の負担も考えて、地域の開業総合医や介護スタッフとも緊密な連携を取り、不測の事態にすぐに対応できる体制を整えておくことが重要である。
また、病状が進行し、在宅でのケアが不可能になるケースもある。そうしたケースに対応するために、緩和ケア病棟やホスピスのより一層の充実も求められる。人生の終わりをどう過ごすのかという、患者の側の希望は色々とある。そうした希望を叶えるために、緩和ケア病棟やホスピスは、単なる医療機関としての役割だけでなく、心の平安を得られる様々な施設を用意し、患者の納得できる「幸福な死」を最後まで支える必要がある。(785字)
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