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【知識補充】:2023年/医学部入試/定番テーマと時事問題/時事問題編

①:コロナ関連
  ■新型コロナウイルス感染症は2023年5月8日より「5類感染症」へと移行。
   感染時の重症度が低下したことが理由。5類は「総合的な観点から危険性
   が最も低いもの」という扱い。マスクに関しては2023年3月13日から「個
   人の判断」に委ねられた。ワクチン接種は継続。
   📎【メリット】:人の外出や(外国人を含む)移動が活発になり、経済
    活動が活性化する。感染時の煩雑さや負担が軽減され、快適さが向上
    する。厳重なコロナ対策を行う必要がなくなり、医療機関や商業施設、
    飲食店等の負担が軽減する。
   📎【デメリット】:人の移動や密集度が上がり、感染(集団感染を含む)
    のリスクが高まる。免疫力や体力の低下した高齢者がコロナに感染する
    と重篤化しやすいが、彼らが感染しやすい環境になる。
   📎【医療への影響】:重篤化した患者への対処や、感染を恐れて来院でき
    ない高齢者への対処のため、オンライン診療(リモート診療)が急速に
    普及した。これからは在宅患者(在宅医療)や島嶼部・僻地の患者を中心
    にオンライン診療が一般化すると思われる。

②:脳死臓器移植
  ■2023年2月、NPO法人「難病患者支援の会」が仲介した海外移植で「臓器
   売買」があったとして理事長が逮捕された。「無許可でのあっせん」が主
   たる罪状だが、背景には「日本における深刻な臓器供給不足」「移植で
   しか助かる見込みのない患者の切実な需要」がある。
   📎【臓器移植とお金】:日本では移植の際の臓器のやりとりは原則無償
   (ドナー及びその家族は提供の際に謝礼等が支払われない)であり、被提供
    者(レシピエント)は移植手術の費用のみを支払う。また全ての臓器移植
    に保険が適用される。
   📎【臓器提供の少なさ】:人口100万人当たりの臓器提供者数は、スペイン
    46.03、アメリカ44.50、イギリス21.08、韓国7.88に対し、日本では0.88で
    圧倒的に少ない。原因としては「脳死を死と考えることへの抵抗感」
   「極めて厳密な脳死判定」「脳死判定が実施可能な医療施設および医師の数の
    不足」などが考えられる。
   📎【臓器売買の問題点】:臓器提供には「死後移植」「脳死臓器移植」「生体間
    移植」があるが、海外での臓器売買の場合、いずれも提供者は貧困国の人々
    であり、実質的に「金を持っている国の人間が、金を持たない国の人間から
    臓器を買う」形になる。この「人間としての不平等」を黙認しなければ臓器
    売買は成立しない。
   📎【アメリカでの心臓移植】:心臓移植は日本では実施数が少ないため、移植を
    希望する患者(家族)が募金活動等を行い、アメリカでの「海外移植希望者枠」
    を利用して移植を行うが、この枠は本来「医療レベルが低い国」「経済的に
    貧困である国」の患者を対象としたものである。それを「医療レベルが高く」
    「経済的に豊かな」日本人が金で買い占めている、という問題がある。
   📎【対策】:日本における臓器提供数を増やすことが唯一の解決策であるが、
    現在の日本でできることは「臓器提供の意思表示の規定変更」、つまり臓器
    提供の条件を「臓器提供の意思が表示されている場合のみ臓器摘出を行う」
    から「臓器提供への反対の意思が示されていなければ臓器摘出を行う」へと
    規定を変更すること、および「脳死判定を行える医療施設を増やす」「脳死
    判定が可能な医師数を増やす」といったことだけであり、問題の解決は難しい
    と思われる。

③:iPS細胞
  ■2006年に京都大学の山中伸弥教授によって作成されたiPS細胞であるが、
   再生医療での技術促進は進んでいるものの、海外での普及は進んでおらず、
   結果として「ガラパゴス化」(日本だけで孤立)した技術となりつつある。
   📎【再生医療】:病気や怪我などで失われた機能を回復させることを目的とした
    医療。何らかの仕方で「幹細胞」を作製し、それを組織や臓器へと分化させ
    移植を行う。幹細胞には「胚性幹細胞」(胚、すなわち受精卵の卵割が進んだ
    ものを破砕して幹細胞を取り出す)と「人工多能性幹細胞」(体細胞を初期化
    して幹細胞化させる。これがiPS細胞)がある。
   📎【iPS技術の利点】:これまでの幹細胞作成においては「生命の萌芽である
    胚を破壊する」という「生命倫理上の問題」と、「移植する組織の遺伝情報と
    患者の遺伝情の不一致」による「拒絶反応の発生」という2つの問題が存在
    した。iPS技術は「患者の体細胞を初期化する」という方法でこの2つの
    問題をクリアしている。通常の臓器移植でも、移植後は拒絶反応抑制のための
    投薬を一生続ける必要があるが、iPS組織の移植後にはそうした投薬は
    (ほぼ)必要ない。
   📎【iPS技術の問題点】:まず、わずかであるが移植した細胞の「癌(ガン)化」
    が確認されている。次に「作成に時間がかかる」という問題があり、その代替案
    として特定の人の体細胞由来のiPS細胞をあらかじめ量産することが試みられ
    ている。ただしこれにより「本人の体細胞由来なので拒絶反応が起こらない」と
    いうメリットは消失したことになる。
   📎【普及の遅れ・孤立】:海外では先に確立した「ES細胞作製技術」に基づく
    再生医療に基づいて再生医療の技術をどんどん進歩させている。倫理面よりも
    「現実的なニーズ」を優先した形であるが、再生医療を必要とする患者の立場
    で考えれば妥当な選択であるとも言える。この流れの中で、安全性や合倫理性
    をメリットする「iPS作製技術」は海外で普及せず、一方日本ではこの(日本
    由来の)技術に固執している面もあり、再生医療においては技術的な孤立が進ん
    でいる。

④:ワークライフバランス・女性医師
  ■現在日本では「医師として働く」という点に関する2つの問題が存在する。1つ
   は「医師としての使命と個人としての人生のバランスをどう取るか?」という問題
   であり、2つ目は「女性医師の継続的な就業を可能とするためには何が必要か?」
   という問題である。深刻な医師不足が続く中で、こうした問題をきちんと解決し、
   医師にとっても患者にとってもメリットとなるような医療を模索する必要がある。
   📎【医師の使命】:医師の使命は患者の生命・健康・人生・幸福を支え守ることで
    あり、患者からの要請があれば基本的にいつでも対応する必要がある。特に地方
    で「プライマリケア」に従事する開業医にその傾向が強い。この意味で医師は24
    時間365日医師でなければならない、ということになる。しかし医師不足・患者
    過多の状況において、こうした姿勢で医療に従事することは「過剰なストレス」
    「過労(死)」などを引き起こす可能性があり、医師個人としての人生の充実が
    図れない。このような「ワークとライフのアンバランス」を軽減するために、
    短期的にはこれまで以上に医師間・医師同士での「助け合い・支え合い」が重要
    となる。また長期的には「医師数の増加」も必須である。2030年代の半ばに医師
    と患者の需給が均衡するとは言え、医師の高齢化も進んでおり、しばらくの間は
    多くの若い医師を輩出しつつ、1人1人の医師の負担を軽減することが必要となる。
   📎【女性医師】:女性医師の問題は「女性医師としての人生の充実」と「医師不足の
    解消」という2つの側面から考えられる。令和においても男女の「性的役割(ジェ
    ンダー)」に関する問題は解決しておらず、女性は「結婚・出産・育児」という
    イベントにより「医師としての自己」のキャリアが阻まれる(一時的な引退・永続
    的な引退を余儀なくされる)可能性が高い。これを医療全体の視点で捉え直せば
    「せっかく育てた医師としての人材の消失」を意味し、それを防止する方策として
    「女子受験生の入学阻止のための得点改ざん」などが行われていたこともある。
    しかし現在では医師に女性を積極的に登用し、彼ら(彼女ら)がなるだけ医師と
    してのキャリアを維持できるような制度的・インフラ的な改善が試みられている。
    例えば「就業時間の緩和(就業の時間を選べる・もしくは短縮できる)」「託児所
    や保育施設の設置」などが挙げられる。ただしそれでも「家事・育児」が女性の
              仕事、という問題を解決できているわけではない。これを解決するためには「男性
    医師の就業の見直し(夫婦ともに医師である場合)」や社会全体の「男性の就業
    に関する制度改革(男性が家事や育児に携わることが可能な時間を確保する)」
    といった大掛かりな対策が求められることになる。

⑤:がんと認知症
  ■「がんと認知症の増加」は高齢化が進む社会においては避けられない事態である。
   またこれは日本のみならず、将来高齢化を迎える世界全体の問題として「人類の
   医療の最終課題」となる。その中で、日本は「最も早く高齢化が進んだ国」、つ
   まりがんと認知症対策のパイオニアとして、先例のない未知の領域での試行錯誤
   を続けることが求められる。そのアプローチとしての「治療技術の進歩」と「共存」
   の2つの側面から考えることができる。
   📎【がん】:2023年時点での日本の年間死者数は約157万人。その死因のトップは
    「悪性新生物(がん)」で約38万人である。現在がんに関しては「発見方法」
    「手術」「投薬」「外的アプローチ(例えば重粒子線治療)」「内的アプローチ
    (例えば分子標的薬)」など、さまざまな技術が進歩を続けており、初期から
    中期のがんを克服できる可能性は高まっている。この技術面での努力を、医療は
    続けていく必要がある。一方、治療困難もしくは治療不可能な患者の「ターミナ
    ルケア」に関しても、さまざまな可能性を模索していく必要がある。「病床」
    「ホスピス」はもちろん、「在宅」での充実した終末医療を実現するためには、
    他分野の人々との密接な「連携」も重要となる。がんが治っても、治らなくても、
    1人1人の命と人生を大切にすることを目的として、医療は進歩を続けていく
    ことが求められる。
   📎【認知症】:2022年時点での日本の高齢者(65歳以上)人口は約3600万人。その
    うち認知症患者数は600万人強とされる。認知症の大半は「アルツハイマー型」
    で、「脳血管性型」「レビー小体型」が続く。症状は主として「記憶障害」
    「認知・判断力障害」「被害妄想」「暴言・暴力」「徘徊」などがあり、進行度
    も比較的遅いものも多い。そのため初期の段階で「認知症の疑い=自我の崩壊」
    を恐れ、自覚があってもなかなか本人が認めない状態になりやすい。その間に症状
    が進行してしまうというケースもある。現在認知症を治療できる医療技術や薬は
    存在しない。認知症の原因物質とされるアミロイドβの生成を阻止するための薬が
    開発途中(一部使用)であるが、それ以外の方法はまだ途上である。以前は認知症
    の問題と言えば「患者と家族のトラブル」に関するものが多かったが、現在は医療
    や行政からのサポートにより、家族の負担は軽減されつつある。一方で「高齢者
    のみの世帯」「高齢者単独世帯」での認知症の問題は相変わらず深刻で、周りの
    「気づき」や「見守り」、「支え」がないと生活と生命が維持できない。よって
    認知症が進行した人の大半は「老人介護施設」「精神科」などが主として受け入れ
    ざるを得ない状況にあることは現在でも変わりはない。それでも町ぐるみで認知症
    患者を支え、「共存」を目指す活動も存在する(例:福岡県大牟田市)。医師は
    そうした地域住民や組織、自治体などと連携し、認知症患者が可能な限りQOLと
    尊厳を維持したまま、「顔の見える存在」「固有の存在」「○○さん」として地域で
    暮らしていけるようにサポートを行う必要がある。
                                   以上

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2023/08/14 02:28 編集返信
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玄武庵

Author:玄武庵
日本の片隅で予備校講師をしながら旺文社(入試問題正解)・教学社(赤本)等で作問・解答・解説等の仕事をしています。小論文は自分の頭で考えて書くことが一番大事ですが、その際の参考にしてもらえるとうれしいです。頑張ってください。(※コンテンツはすべて無料です)

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