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【知識補充】:2023年/医学部入試/定番テーマと時事問題/定番テーマ編

①:地域医療

  ■地域医療は「専門性」から「プライマリケア」へ、「来院医療」から「在宅医療」
   へとシフトしつつある。
   📎【プライマリケア】:総合診療・かかりつけ・ホームドクター
   📎【在宅医療】:往診・ターミナルケア・QOL・尊厳・ナラティブな人生

  ■このシフトチェンジの原因として「人生の伴走者としての医療」「全人的医療の重視」
  「健康管理の重視(予防医学・一病息災・多病息災)」「高齢者の増加」などが挙げら
   れる。
   📎【人生の伴走者としての医療】:病気になった患者を短期的に診るのではなく、地域
    住民の健康を「人生」単位で見守り支える役割を医療が持つということ。
   📎【全人的医療】:身体的健康だけではなく、精神的側面を含む形で、患者を「トー
    タルな存在」と捉えて医療を行うということ。
   📎【健康管理】:医療の目的が「治療」から「予防」へと変化し、病気(主として
               生活習慣病)にならないための健康管理や健康指導、病気を抱えていても「元気
    (健康)」に暮らせるためのサポートが重視されるようになったということ。
   📎【高齢者の増加】:2022年9月時点での日本の総人口は1億2500万人、65歳
    以上の高齢者は3627万人で、高齢化率は約29%。日本の居住者の10人に3人が
    高齢者。高齢になるほど持病を抱えるリスクが増大するので、患者の数も増加する。

  ■地域医療に従事する医師のあり方は「どうすれば病気を治せるか?」から「どうすれば
   充実した人生と治療を両立できるか?」へとシフトしつつある。
   📎【医師のあり方】:専門家としてのスキルの高さはもちろん大事だが、患者の
    言葉に耳を傾け、諸事情を思いやり、双方向的なコミュニケーションを通して
    両者にとっての最適解を求めていくような資質が要求される。
   📎【インフォームドコンセント】:これまではEBM(根拠に基づく医療)に
    基づいて、患者の意見も踏まえつつ、医師が治療の選択肢(各治療のメリット・
    デメリット)を説明しながら患者に「同意」を求める形であったが、これからは
    より「患者」の意見を重視し、患者の人生をより充実させるための治療計画を
    「双方」の納得する形で作り上げる「合意」に比重が置かれるようになる。


②:チーム医療

  ■チーム医療は「医療従事者間のチーム」と「医療従事者以外の人々との連携」の
   両面を一層重視していくことが求められる。
   📎【医療従事者間のチーム】:具体的には異なる科の医師同士の連携(医療連携)、
    総合診療医と専門医の連携、医師と歯科医師の連携、医師と看護師・薬剤師・臨床
    検査技師・Pt・Otとの連携などが考えられる。
   📎【医療従事者以外の人々との連携】:具体的には医療従事者と介護関係者(ケア
    マネジャー/ヘルパー)・自治体や行政関係者・福祉関係者(ソーシャルワーカー)
    ・患者家族・患者の近所と住民・地域住民との連携が考えられる。主として在宅医療
    の患者、および在宅で暮らす認知症患者のサポート等が想定される。
   📎【コ・メディカル】:通常は「医師を除く医療従事者の総称」であるが、近年
    では患者の医療に協力するより広い範囲の人々も含めた形で考えられることもある。


③:医師不足・医療格差

  ■全体的には、現在は高齢化に伴う患者の増加に対し、医師の数が不足している状況で
   ある。今後医師の数は増加し、2030年のなかば頃に患者と医師の需給のアンバランス
   が解消し、その後は医師(供給)過剰の状態へと移行すると予想されている。
  ■部分的には「医療格差に基づく医師不足」の状態はこれからも継続し、それらは社会に
   深刻な影響をもたらすと考えられる。
   📎【医療格差その①/診療科格差】:現在は内科・総合診療科・心療内科・婦人科・
    精神科等の人気が高く、救命救急科・外科・産科・小児科・麻酔科等の人材が不足
    している。救命救急科・外科の人材不足は救命率や緊急性の高い外科的治療に影響
    を及ぼす。産科・小児科の不足は出産・子育てに影響を及ぼす。麻酔科の不足は外科
    的手術の実施数や成功率に影響を及ぼす。
   📎【医療格差その②/地域間格差】:現在日本では都市部、および医学部設置大学の
    近辺地域では医師数及び医療の質が高く、それ以外の地域では医師数及び医療の質
    が低い、という「地域間格差」が存在する。これには2つの問題が存在する。1つ
    は国民が等しく医療の恩恵を享受できるという「医療の平等性」が保てないという
    こと、2つ目は地方での「医療崩壊」を招き、その結果地方そのものが存続できなく
    なる(「地方崩壊」)ということである。地方では高齢化率も高い。その状態で近く
    に行ける病院も医師も存在しなければ、そこはもはや「居住に適さない」ので、その
    地方から住民、そして(住民の大半である)高齢者は離れていくしかないのである。
    それは結果として地方の人々の「QOL」「ナラティブな人生」を大きく損なうこと
    にもなる。「僻地」「島嶼部」の医療の問題のほぼ全てがこれに起因する。


④:医療費

  ■現在日本では国家財政における「医療費の圧迫」が深刻である。これに対して「各種
   医療保険税」の主たる払い手である「生産年齢人口層」の負担軽減を図るため、短期
   的には「高齢者の医療負担額増加」、長期的には「予防医療による疾病(主として
   生活習慣病)患者数の減少」が取り組まれている。
   📎【国民皆保険制度】:日本では収入の低い人でも安価で医療を受けられる制度と
    して「国民皆保険制度」が存在する。毎年一定の金額を「健康保険税」として国
    に納入することで、実際の医療に対しては、かかった額の「3割(生産年齢
    人口層)」「2割(高齢者)」の支払いで済む(残りは国の徴収した財源で負担)。
    しかし通常の「保険」と同様、保険の適用者(つまり患者)が増えれば財源が
    枯渇し、制度そのものが破綻する。制度が破綻すれば基本は全額負担となり「医療の
    平等性」は保てなくなる。
   📎【医療費の現状】:令和2年度の国民医療費は約43兆円。人口1人当たりの年間国民
    医療費は約35万円。ちなみに日本の一般会計予算が約115兆円。医療における患者の
    大半が高齢者であるため、実質的に「みんなから集められた健康保険税の大半は
    高齢者のために使われる」という形になる。高齢者の医療負担を増やすことは、
    間接的には「国家財源から支払われる額を抑制する(生産年齢層の負担軽減)」
    ことになるが、一方で裕福ではない高齢者にとっては「医療費が高くて病院に行き
    づらい(高齢者の健康低下)」という状態を招く。
   📎【予防医療の考え方】:病院に行く患者の総数が減少すれば国家財源からの支払
    いが減少するため、財源に余裕ができ、本当にこの制度が必要な人びとにもっと
    力を注げる可能性が広がる。「予防医療」には2通りの考え方がある。1つは長期
    的・継続的な治療が必要となる「生活習慣病」の予防を促進する、という考え方。
    これは若年層や中年層も含めて行うべき対策であり、食生活の調整・規則正しい
    生活の推進・運動の推奨・飲酒の抑制・喫煙の禁止などが主となる。定期的な健康
    診断や、地域住民との密なコミュニケーション、健康啓発のための講演会の実施、
    メディアを通じた情報発信などが具体的な活動となる。2つ目は「疾病の悪化を防止
    する取り組みを促進する」という考え方。これは主として高齢者層で外科的問題を抱
    えている人々への対策であり、いわゆる「足腰」の不全や摩耗によって生じる痛みや
    運動不足がもたらす「筋力低下」を防ぎ、運動能力を維持・向上させることで「寝た
    きり」にならないようにすることが主となる(寝たきりになると様々な病気を進行
    させる原因となる)。行政が主導する運動教室やリハビリが具体的な活動となる。


⑤:まとめ

  ■これらを踏まえて、これからの医療人に必要な資質として、以下の項目が想定される
   と思われる。
   📎【他者に対する共感力】:医療において医師が患者やチームの他のスタッフと
    協調的に作業を行うためには「他人の立場に立って物事を考え、それを大切にする
    能力」が求められる。これまではそれを「思いやり」と言ってきたが、「思いやり」
    は場合によっては自分が勝手に相手のことを考える「思い込み」につながる恐れも
    ある。そうならないために、相手から直接相手の思いを聞くこと。相手の言葉や
    考え、思いに真摯に耳を傾け、共感する能力が求められると理解する。
   📎【自己相対化力】:他者と適切なコミュニケーションを行う際に必要となる。簡単
    に言えば「自分の言葉や態度が、相手に対してどのような印象を与えるのかを冷静
    に把握する能力」のことである。「自分は正しいことを行っている」「相手のため
    を思って言っている」と考えて行動や発言を行っても、それを相手がどのように捉
    えるかという「想像力」が欠如していれば、結果としてそれらは「ひとりよがり」
    となってしまって、医療人としての目的を適切に遂行できないことになる。自己を
    常に相対化し、適切なコミュニケーションを行うことを目指すべきである。
   📎【協調性とリーダーシップの両立】:②:チーム医療の項でも述べたように、これ
    からは他の医療スタッフや地域の人々と「協力」して医療活動を行っていく機会が
    増えていく。自分が医師として(=中心となって)他の人々がその活動を支える、
    といった〈主従関係・上下関係〉的な発想を持っていると、チームはうまく機能
    せず、医療上の目的を果たせない。「みんなで助け合って地域住民や患者の人生
    を支えていく」という気持ちを持ち、「自分もチームの他のスタッフを支え、サポ
    ートする一員である」という自覚を持って関わることが大切となる。またそれと
    同時に医療における最終責任者は医師である自分であり、治療方針の最終決定者
    は医師である自分である、という自覚と責任感を持って医療に取り組み、チーム
    の活動(=患者の生命・健康・人生・幸福を守り支えること)に対する責任の所在
    が自分にあることを念頭において行動や発言を行う必要がある。この一見相反する
    ように見える資質を両立させる能力が求められていると理解する。
                                       以上

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玄武庵

Author:玄武庵
日本の片隅で予備校講師をしながら旺文社(入試問題正解)・教学社(赤本)等で作問・解答・解説等の仕事をしています。小論文は自分の頭で考えて書くことが一番大事ですが、その際の参考にしてもらえるとうれしいです。頑張ってください。(※コンテンツはすべて無料です)

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