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【小論文解答】:2021年/東京医科大学/医学部/本試験

 人間が重い病気を患ったときの『人間特有の苦しみ』とは、自分の人生が終わってしまうという苦しみだと私は考える。筆者は文章で「いま、ここ」という場所で生きているチンパンジーの様子を肯定的に捉えているが、人間は基本的に人生を「過去から未来」へと至る一筋の線と捉え、その線上に「いま、ここ」をその都度位置づける。しかし重い病気はこの線の持続を危うくする。昔のような元気な自分はもういない。今の自分は線の終わりにある。「自分」というものが無くなってしまう。そうした「予感としての自己喪失」が「苦しみ」の内実ではないかと私は思う。
 そして人間にそのような『苦しみ』が生じるのは、人間が自己をかけがえのない存在であると考えているからである。そのかけがえのなさは生まれた時から他者との関係で築いてきた「いま、ここ」の積み重ねによって生じる。この積み重ねはそれぞれの人の「固有の物語」を紡ぎ上げていく。人間はこの物語と切り離して「いま、ここ」を考えることができない。それが人々に『苦しみ』を生む。
 それでも患者はこの『苦しみ』を軽くすることができる。それは周りの人間が患者の人生を最後まで丸ごと受け入れ、支え続けることによってである。患者の尊厳を尊重し、固有性を大切にすることで、患者は人生を最後まで肯定できる。『人間特有の苦しみ』は人間特有のやり方で軽減する。私もその一人として、患者と向き合っていきたいと考える。(597字)

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プロフィール

玄武庵

Author:玄武庵
日本の片隅で予備校講師をしながら旺文社(入試問題正解)・教学社(赤本)等で作問・解答・解説等の仕事をしています。小論文は自分の頭で考えて書くことが一番大事ですが、その際の参考にしてもらえるとうれしいです。頑張ってください。(※コンテンツはすべて無料です)

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