「朝令暮改」とは通常、方針などが絶えず変わって定まらない、といった否定的な意味で用いられることが多い。方針がころころ変わるようでは組織も社会も成り立たない。また、会う度に言っていることがころころ変わるような相手とは信頼関係を築けない。一度決めたことは変えない、といった態度こそが誠実さの証であり、そうした人間は信用に値すると私たちは考える。医療の場面においても同じである。自分が患者なら、会う度に方針が変わるような医師は不誠実と考えて信用しないだろう。態度や方針が一貫しているからこそ、患者は自己の生命や健康を医師に委ね、その指示に従おうとするのである。
しかし一方、「朝令暮改」は「臨機応変」につながる考えでもあり、その意味では価値のある態度でもあると私は考える。なぜなら状況は刻一刻と変化するし、対処すべき方針もそれに合わせて変更を加えていく必要があるからである。例えば医療の場合、患者の初期の容態から立てられた方針は、患者の容態の変化に合わせてその都度変更されなければならない。患者の容態と関係なく方針が一貫していても、それは患者のためにも医療の役割としても無意味である。患者にとって最善の医療を提供するためには、患者の状況をよく観察し、その変化を見逃さず、その時その時に応じて積極的に「朝令暮改」を進めていかなければならない。そしてそうした態度が患者からの信用につながるのだと私は思う。
「朝令暮改」に関するこの2つの考え方は一見すると矛盾しているように見えるが実は両立すると私は考える。最終的にどのような状態になるのがゴールなのか、という目的の部分は一貫している方が良いし、そのためにどのような対策が必要なのか、という部分は状況に応じて変わり続ける方が良い。こうした「朝令暮改」の使い分けが出来る組織ほど目的をより達成することができるだろう。医師もまた例外ではない。そのことを自覚して医療に取り組んでいきたいと私は思う(813字)
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