地域医療における「かかりつけ医」の役割は、地域住民の健康と命を守ることにある。そしてそれはまた、地域住民の幸福な人生を守ることでもある。かかりつけ医の行う医療は「プライマリ・ケア」と呼ばれるように、地域住民の年齢や性別に関係なく日常的かつ全般的な健康管理を行うことが主となる。一般的な病気や怪我に対処することはもちろんであるが、それだけでなく病気にならないための健康指導、健康診断を通した定期的な健康チェック、軽い症状の患者の継続的な診察による重症化の防止、重い症状の患者の大規模病院への取り次ぎ、病院に来られない患者のための継続的な往診といった様々な役割を医師は担っている。地域住民にとって「かかりつけ医」は、自分の健康に何かあった時、または不安になった時に、身近にいてすぐに相談できる「頼りになる存在」なのである。
医師がこうした役割を果たすためには、総合診療に必要な知識と技術を十分有しているだけではなく、地域住民との深い信頼関係の構築が重要となる。患者の1人1人の事情や社会的・経済的背景をよく理解し、価値観や人生観に共感し、それぞれに合わせたきめ細やかなアドバイスや医療を行うことで、医師は地域住民の「かかりつけ医」としての信頼を獲得する。それを可能とするには患者に対するきめ細やかな配慮、患者の話に真摯に耳を傾け自分の考えを患者にわかりやすく伝えることのできるコミュニケーション能力、夜間の突然の発熱といった事態にもきちんと対応する使命感や責任感などが必要となる。
また「かかりつけ医」としての仕事は、個人が単独で実現できるものではない。他の総合医や専門医との連携、看護・福祉関係者との連携、自治体や行政との連携、そして何より地域住民との連携が重要となってくる。医師自身が積極的に地域に溶け込み、協調性を持って人々と関わることで、地域住民の幸福な人生を支えることが大切だと私は考える。(796字)
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