【用語解説】:「着床前診断」と「出生前診断」
■「着床前診断」について。
〇「着床前診断」とは?
①「不妊治療」の一方法として行われることが多い。「不妊治療」では
着床率の向上や染色体異常を原因とする流産の防止のため、体外受精
によって複数の受精卵を作成し、条件適合性の高い受精卵を子宮内に
戻す、という方法を採る。
②具体的には「8細胞期~胚盤胞期」の細胞塊から細胞を取り出し、中
の遺伝子や染色体を解析する。条件適合形質を持たない受精卵は、基
本的に廃棄されるか冷凍保存される。
〇「着床前診断」のメリット。
①「着床前」なので、母体に対するリスクが発生しない(排卵促進剤に
よる卵子採取に際するリスクは除外する)。
②着床後の母体のリスク(不妊や流産)を大幅に軽減する。
③遺伝子異常を理由とする人工妊娠中絶を回避することができる。
〇「着床前診断」の問題点。
①「優生思想」的な思考を助長する。「優生思想」とは「すぐれた人間
のみが生きる価値をもつ」という思想。これが「障害者は生きる価値
をもたない」という発想に(意識していなくても)関与するため、障
害者団体などは「着床前診断」について批判的な立場をとる。
②解析は100%確実なものではないので、解析によって条件適合性が高
いと見なされ、着床を行った胚でも、遺伝上の問題を抱えた胎児・子
どもへと成長する可能性がある。
■「出生前診断」について。
⓪「出生前診断」には「通常(旧来)の出生前診断」と「新型出生前診断」
の2種類が存在する。
〇「通常(旧来)の出生前診断」とは?
①胎盤内に浮遊する胎児の細胞片や胎児を包む絨毛組織の一部を採取し
(「羊水検査」「絨毛検査」)、細胞中の遺伝子を解析する。
②細胞採取時に、わずかだが流産・出血といった母体へのリスクが発生
する。
〇「新型出生前診断」とは?
①「母体の血液中に存在する胎児由来遺伝子」を採取し、解析する。
②「母体の血液を採取するだけ」なので、「通常の出生前診断」に比べる
と母体へのリスクは格段に低い。
③ただし、新型出生前診断で胎児に遺伝子異常が認められた場合には、解
析の精度を上げるために「通常の出生前診断」を行うよう勧められる。
〇「出生前診断」の問題点。
①検査結果で遺伝子異常が認められた場合、9割強が「人工妊娠中絶」を
選択している。よって実質的に「優生思想的な命の選別」を助長してい
ると考えられる恐れがある。
②解析は100%確実なものではないので、「遺伝子異常がないと認められた
にもかかわらず遺伝子異常を抱えた子どもが生まれる可能性」や「遺伝
子異常があると見なされたが実は遺伝子異常がなく、それにもかかわら
ず人工妊娠中絶等によって子どもが出生を阻まれる可能性」が生じる。
③解析の対象となるのは13トリソミー・18トリソミー・21トリソミー(ダ
ウン症)の3つだが、特に「21トリソミー(ダウン症)」に対して「人
工妊娠中絶」を選択することの問題がある。以前は短命と言われていた
ダウン症の平均寿命は現在60歳程度であり、医療技術の進歩により日常
生活を普通に送れる人も多い。また症状に関しても幅があり、30歳を過
ぎるまで周りにも気づかれず、本人の自覚もないケースも存在する。こ
うした人々の「生存可能性」を排除していいのか、という点について考
える必要がある。
〇「新型出生前診断」の現状と今後について。
①無認定施設による不適切な診断の増加が問題となっていたが、日本医学
会はこれを「認定施設の増加」という形で解消しようとしている。した
がって認定施設の数は今後増加する。
②認定施設の増加に伴い、「新型出生前診断」の検査希望者数、および検
査数が増加し、その結果として「遺伝子異常」と診断されるケース(=
その大半は「人口妊娠中絶」を行う)も増えてくると予想される。ただ
し中絶数に関しては、それでも日本で年間に行われている人工妊娠中絶
数(年間約15万件)に比べたら微々たるものである。
③実際は遺伝子異常があっても生みたい・育てたいと思っていても、経済
的事情や環境的事情により出産を断念するケースもあると思われる。こ
うした人々が安心して出産・育児を選択できるような社会システム・環
境の整備を行っていくことで、「出生前診断」の倫理的な意味づけを向
上させる必要がある。
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