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杏林大学医学部小論文の特徴(2022年記述)

 2次試験で課される。60分800字(程度)。以前は短文テーマもしくは表分析を含んだ短文なども出されていたが、ここ数年は「単純テーマ型」の出題が続いている。単純テーマ+800字の構成で出題を行う大学としては、他に久留米大学が挙げられるが、テーマ内容に関しては大きな相違がある。ここ数年の出題テーマを以下に列挙してみると、

 「寛容の精神」「人を疑うこと」「リーダーシップ」「諦めるということ」「弱肉強食」「不言実行」「自己犠牲」「人を評価する」「信念を貫く」「流行を追う」「触らぬ神に祟りなし」「働くということ」「教育の意義」「思い通りにいかないということ」「競争社会」「表現の自由」「嘘も方便」「いじめ」「シルバーシート」「ともに社会を生きる」(以上出題年度省略)

などが挙げられる。一見、どれももやもやとしていてこれらのテーマについて何を語れば良いのか分かりづらいかもしれないが、よく見るとこれらのテーマの大半に共通する(すべてではない)2つの要素があることがわかる。すなわち、

 ⑴:医療人の資質を確認するための出題である。
 ⑵:二面性を含んだテーマである。

ということである。

 例えば「弱肉強食」を例にして考えてみることにする。医学部受験という〈現在受験生が直面している現実〉を分析すれば「弱肉強食」は肯定的に捉えられる。競争を通して〈強い者=合格者〉が医学部生としての資格を手に入れ、その後「医師国家試験」という競争を通して〈強い者=医師〉が患者の生命と健康を預かる者としての資格を手に入れる。この過程が「弱肉強食」でなければ、患者に質の高い医療を供給することが出来なくなる。

 一方で患者を「弱者」と捉える場合、〈弱者を肉にする〉という発想は医療においては適切ではない。〈患者=弱者〉は人間という意味では他の人々(=強者)と対等であり、それぞれかけがえのない存在としての尊厳、物語る者としての固有性を持っている。それを〈強者〉である医師が守るところに意味がある。弱肉強食を肯定する社会を生き抜いて、弱肉強食を否定する仕事に携わる。それはどちらも大切なことである。

 このように分析すると「弱肉強食」というテーマには⑴と⑵の2つの要素が含まれていることがわかる。この中で、特に⑵を重視する理由をさらに深く掘って考えてみることにする。1つには〈相対的思考〉ができるかどうかを確認している、ということが考えられる。物事(現象)には複数の〈見え方〉があり、人はどの立場にいるか、どのような状況にいるかによって異なる見方をする。「自分はこう思っているけれど、立場が違えば逆に思えるかもしれない」という思考は、患者を相手に医療を行う医師の資質としては必須となる。相手を思いやり、相手を尊重するということは「相手の立場で考えられる」ということに他ならないのである。そうした能力を持っている人間を合格させたい、というのが出題者の意図の1つであろうと思われる。

 2つ目には〈素早く発想して論理的思考を展開し、適切に組み立てる能力〉を持っているかどうかを確認している、ということが考えられる。これは言わば受験生の〈知的能力〉そのものであるし、他者に対する〈説明能力〉そのものである。一見不分明なテーマから論点を見出し、自己の思考を論理的に展開し、相手にわかるように説明する。このプロセスは〈一見不分明な症状から問題点を見出し、自己の医師としての思考を論理的に展開して原因と対処法を特定し、それを患者にわかるように説明する〉というプロセスと同じである。その能力を有する者が60分で800字という制限の中で論理的な破綻のない論文を作成でき、なおかつ自己の医療人としての資質をアピールできるのである。

 よって杏林大学を本命視している受験生は、こうした⑴・⑵という要素を深く理解して、過去問を丁寧に演習していくことが重要であると思われる。

 

 

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玄武庵

Author:玄武庵
日本の片隅で予備校講師をしながら旺文社(入試問題正解)・教学社(赤本)等で作問・解答・解説等の仕事をしています。小論文は自分の頭で考えて書くことが一番大事ですが、その際の参考にしてもらえるとうれしいです。頑張ってください。(※コンテンツはすべて無料です)

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