(※乳癌で不安を抱える患者が、同じ病気で亡くなった親友の話をした時の産婦人科医のコメントに対して)
この婦人科医師の行動で問題があったのは、患者の抱える不安を数字上の確率の問題として切り捨てるような言動を「即答」の形で行ったことである、と私は考える。何故ならそのような対処によって、医師は患者の心を傷付け、信頼関係を損なうとともに、本来必要であるはずの医療行為に対してまで患者に不信感を抱かせてしまっているからである。
「乳癌になるのは1年当たり100人に1人」という数字は、医師にとっては「非常に少ない」という印象のもとに語られる。しかし患者にとっては、ホルモン療法を続けている以上、自分がその1人になる可能性は決してなくならないし、乳癌になれば、大切な親友と同様に自分の命も奪われる。そうした切迫した気持ちを考慮せず、他人事のように語る医師は当然「自分のことを真剣に考えてくれていない」と見なされてしまうのである。
この患者さんに対しては、まず、患者の発言の背後にある不安をしっかりと汲み取り、共感の態度を言葉や態度で表すべきであったと思う。相手の言い分をきちんと聞いて、「親友を亡くされて、さぞかしショックでしょう。同様の状況になることは、確かに不安なことでしょう」と心を込めて言うべきであった。そしてその後に、患者が「100人に1人」にならないよう注意深く観察しながら、メリットのある治療を一緒に続けてゆきましょう、と言って患者を励ますべきであった。そうすれば患者も不信感を抱かずに済んだと思う。(596字)
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