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【小論文解答】:2021年/産業医科大学/医学部/本試験/Ⅰ

〔設問1〕
この裁判で客観的な判断をするためには、まず硫酸塩の蒸気と消耗性疾患や胸部疾患との因果関係に関する情報が必要である。両者の因果関係が医学的に明確であるなら工場からの蒸気が工場近隣の住人の健康に影響を与えている可能性が高いと判断できるが、そうでなければ彼らの死因が工場から排出される硫酸塩であると証明できないからである。
次に必要なのは、工場近隣の住人とそれ以外の住人との硫酸塩の蓄積量の違いに関する情報が必要である。両者の硫酸塩の蓄積量に明確な違いがあれば、硫酸塩の蓄積が工場近隣の住人の健康に影響している可能性が高いと判断できるが、そうでなければ近隣の住人の死因が工場から排出される硫酸塩であると証明できないからである。
加えて、工場以外の硫酸塩の排出源がないかどうかの情報も必要である。仮に硫酸塩の蒸気が工場近隣の住人の健康被害の原因であったとしても、工場の近くに別の硫酸塩の蒸気の排出源があり、そこからの排出量が工場よりも多ければ「工場から出る硫酸塩の蒸気」を工場近隣の住人の死因と直接結びつけることができないからである。
最後に、工場近隣の住人の健康に硫酸塩の蒸気以外のものが影響しているかどうかの情報が必要である。消耗性疾患や胸部疾患の原因となる物質は、硫酸塩の蒸気以外にもいろいろあるはずである。工場近隣で硫酸塩の蒸気以外の物質が排出されていて、それが消耗性疾患や胸部疾患に大きな影響を与えるものであった場合、硫酸塩の蒸気と工場近隣の住人の死因を直接関係づけることが困難になる。これらが客観的な判断に必要だと考える。(解答欄:横15.2㎝×縦23.1㎝)

〔設問2〕
 私はこの一連の出来事について、工場や企業の「倫理規範」の必要性と、それを認識させるための「アドバイザー」の重要性を強く感じた。本文の例は17世紀のものであるが、同様のことは20世紀においても「公害」として知られていた。利益を重視し、健康を軽視していた工場や企業から、大量の汚染物質が空中や水中・海中へと流失し、多くの地域住民が重篤な状態に陥ったり、亡くなったりした。また職場環境の劣悪さから、多くの従業員が病気になった。これらの原因は、汚染物質に対する知識不足と、それを分かった上で改善を行わない倫理性の欠如にあった。現在では汚染物質と健康被害との因果関係がかなり詳細に特定され、企業は地域住民と従業員の健康に配慮することが信頼される条件となりつつある。そして私は将来「産業医」として、人々の健康と企業の健全な発展との両立を支えるための「アドバイザー」という役割をきちんと果たしていきたいと考えた。(397字)

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玄武庵

Author:玄武庵
日本の片隅で予備校講師をしながら旺文社(入試問題正解)・教学社(赤本)等で作問・解答・解説等の仕事をしています。小論文は自分の頭で考えて書くことが一番大事ですが、その際の参考にしてもらえるとうれしいです。頑張ってください。(※コンテンツはすべて無料です)

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