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【小論文解答】:2018年/佐賀大学/医学部/看護学科/前期

(※2021年時点のデータに基づいて作成しています)
 近年、高齢者の交通事故が多発している背景には、日本における高齢者の数が多くなっているということが考えられる。現在日本における高齢化率は約29%で人数としては約3650万人にのぼる。これは国民の4分の1強が高齢者であるということを意味する。
彼らは、ある時は自動車やオートバイの「運転者」として、ある時は自転車や歩行者といった「交通弱者」として、交通の流れの一部を形成している。高齢になると体力や運動能力、認知能力や判断能力が低下しがちであるため、運転者の場合はこれまで可能であった操作に時間がかかったりうまくできなくなったりする、といった事情で交通事故の「加害者」になる可能性が高くなるし、自転車や歩行者の場合はこれまでのような素早い行動ができなかったり、交通の流れや車の動き、信号等に対する認知・判断力の低下が原因となって「被害者」になる可能性が高くなる。また一部のドライバーに関しては、認知症の症状が進行していても運転を続けている場合があり、ブレーキやアクセルの踏み間違えや、左右車線の不認知による逆行行為などが大きな事故を引き起こすこともある。
 対策については「身体能力や認知・判断能力の低下をいかに予防するか」および「身体能力や認知・判断能力が低下した人々とどのように共存するか」という2つの観点からの対処が考えられる。まず前者に関しては継続的な運動や学習の推奨、健康に留意した食事や生活リズムの推奨、定期的な健康診断と適切な疾病対策などを通した心身の健康維持、といったことが考えられる。こうした予防的対処によって、身体能力や認知・判断能力をできる限り維持することで、高齢者の交通事故の減少につなげていくことが重要である。
 次に後者に関しては、例えば運転異常時のサポートシステムを備えた自動車の普及により高齢運転者の加害事故を防止する、高齢者の歩行の安全を確保しやすい歩道の整備を行う、横断歩道の歩行者横断に必要な時間を眺めに取るようにする、認知機能が低下した高齢者が免許を返納する代わりに、利用しやすい代替公共交通機関を充実させる、といったいわゆる「外側からの」対策が考えられる。危険だからといって高齢者の行動を抑制するのではなく、身体機能や認知・判断機能の衰えた高齢者の尊厳を尊重し生活の質を維持しつつ共存の道を探っていく発想を、私たちは持ち続ける必要があるのではないかと思う。
(989字)

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玄武庵

Author:玄武庵
日本の片隅で予備校講師をしながら旺文社(入試問題正解)・教学社(赤本)等で作問・解答・解説等の仕事をしています。小論文は自分の頭で考えて書くことが一番大事ですが、その際の参考にしてもらえるとうれしいです。頑張ってください。(※コンテンツはすべて無料です)

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