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【コラム】:「字が汚いこと」は小論文の評価にどれほど影響を与えるか?

 ある私立大学医学部の入試担当者(A)から直接聞いた話であるが、その大学では「字が汚い論文はこうです」と言って目の前で大きく「バツ(×)」のジェスチャーをした。つまり「0点」である。その大学の小論文の配点は(推定)15~25点なので、これがそのまま失点となる。また別の私立大学医学部の入試担当者(B)から、これも直接聞いた話であるが、「字が汚い場合は最初に3割の減点を課し、そこから内容に応じて減点を行います」と言っていた。その大学の小論文は50点満点なので、これが「35点満点」となった状態から減点されることになる。他の大学でもおおむねこれと同じ状況だろう。字が汚いことを減点の対象としない大学はほとんどないと思われる。

 字の汚さは「絶対評価」ではなく「相対評価」である。自分ではある程度きれいな字だろうと思っていても、他の論文に比べて「有意に」字が汚ければ「汚い字」という評価が下され、減点される。私の授業でも、時々字が汚いことを理由に減点された生徒が「納得いかない」と言って抗議に来ることがある。その時私は他の生徒の論文数枚とその生徒の論文を並べて見せて「どれが一番汚い?」「君が採点者なら、この論文を見たいかい?」と質問する。そうするとほとんどの生徒が納得するのである。生徒や先生の一部に「時の汚さは関係ない。中身で勝負だ!」という人がいるが、その大半は自分の字がきれいではないことの言い訳として言っているに過ぎない。同じ内容の論文なら、字の汚い方が減点される。これが事実である。

 なぜ、字はきれいでなければならないか?これには明白な理由がある。それは「論文の字は他人に見せるもの」という前提で書かれているはずからである。きれいな字とは、端的にいえば「他者に対する配慮のあらわれ」であり、それが汚いということは「他者に対する配慮が足りない」という1つの指標になる。「他者に対する配慮」は医療人として求められる資質の1つであるから、字の汚い人は「医療人としての資質が足りない人」と判断されることになる。これは面接の時に「ぼろぼろのジャージとクロックス」で面接会場に来る人と同じ扱いなのである。確かに昔の医師(現在の高齢の医師)には字の汚い者が多かったことは事実である。しかし現在では医師も患者に対して口頭のみならず、紙に字や図を書いて(描いて)丁寧に説明することも求められる。その際に「患者の読めないような汚い字」で説明するわけにはいかない。また他の病院に「紹介状」を書く時にも「手書き」で行うことが必要なケースがある。医師として「字がきれいなこと」を回避する理由が、現在では存在しない。その入り口として、入試小論文(入学試験)で「きれいな字」を求めることは当然といえば当然であろう。

 次に、医学部入試において小論文の「字が汚い」ことで減点されることのデメリットを具体的に述べる。医学部入試本試験での「ボーダー(つまり合格と不合格の境目)」には「1点=10人」ほどの人がいるとされている。仮に「合格最低点」を250点とすると、この250点のところに10人いて、「不合格最高点」すなわち249点のところにも10人いることになる。この1点の差で、医学部生になるか、もう一度浪人生活を続けるかが決まってしまうのである。もちろん、医学部受験には「補欠合格」という制度があり、一度不合格になっても復活して合格することがあるが、その人数は1大学につきせいぜい10~50人程度、点数にして5~6点の差であると考えてよい。

 ここで先程のケースを思い出してみよう。(A)の大学では、小論文の字が汚ければ15~25点の減点が入る。生徒が学科試験で合格ボーダーラインにいた場合、合格できる可能性はほぼない。自分が一生懸命勉強して努力を積み上げても、字の汚さ一発で全てが無駄になってしまう。(B)の大学でも同様で、字の汚さが合否に与える影響は致命的であろう。しかも(B)の大学の場合、受験者の小論文の平均点がほぼ40点なので、どれほど内容が良くても他の生徒の「5点マイナス」からの減点になるのである。

 この大事な点を理解せずに受験に臨むことは、私にとっては「鎧も武器も持たずに関ケ原の合戦に赴く=死にに行く」ことと同じである。生徒諸氏、および一部の「個性重視派」の先生方には肝に銘じて頂きたい。

 最後に「字の汚い人」に向けて一言。字をきれいにするにはどうすればよいか?きちんと直すのには時間がかかる。手っ取り早く改善するには、以下の3点に気をつけることが重要である。すなわち「大きめに書く」「濃い目に書く」「縦は縦・横は横・斜めは斜め・丸は丸。それをはっきりさせる」。この3つである。字は背筋と一緒で、真っ直ぐしているときれいに見える。大きいとわかりやすい。濃いと見えやすい。これらを意識しながら書いて、他人の評価をもらうこと。これで割と短期間に「減点されない字」にすることは可能である。試してみて欲しい。

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玄武庵

Author:玄武庵
日本の片隅で予備校講師をしながら旺文社(入試問題正解)・教学社(赤本)等で作問・解答・解説等の仕事をしています。小論文は自分の頭で考えて書くことが一番大事ですが、その際の参考にしてもらえるとうれしいです。頑張ってください。(※コンテンツはすべて無料です)

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