【全ゲノム健診について】
1:「全ゲノム健診」とは?
■解析した全ゲノム情報に基づいて(一部のガンなどの)遺伝性疾患の発症リスクを検査するサービス。従来の遺伝子検査では難しかった約60種類の病気の発症可能性を高い精度で割り出せる。
2:具体的には?
■筑波大学(筑波大学付属つくば予防医学研究センター)は2021年6月24日、「全ゲノム解析」を用いた検査の臨床研究を実施したと発表。
■臨床研究は30代から70代までの健康な男女22人を対象として2021年3月から5月に実施。被験者の血液からDNAを抽出し、ガンや心臓疾患に関する76の遺伝子を、専用の装置を使って解析した。そのうち5人から病気と関係するゲノムの変化を見つけ、生活習慣の見直しやガン健診の提案を行っている。
■同センターは7月以降に一般公募による被験者訳100人を対象とした研究も計画。費用は自己負担で約50~60万円ほど。
■全ゲノム健診は欧米が先行し、日本は後発。
3:メリットは?
■従来よりも精密・正確な解析により遺伝子由来の病気の発症可能性を高い精度で割り出すことで、病気の発症可能性を低下させるための生活習慣の改善や、発症リスクを踏まえた事前の対処が可能となり、人々の健康維持・改善に大きく貢献する。
■解析した「遺伝子変異」の情報を蓄積することで、そうした変異を原因とする病気の発症の仕組みを解明することが可能となる。また解明された仕組みを踏まえて研究を進め、治療法の確立や新薬の開発といった医療の進歩に貢献する。
4:問題点は?
■ゲノム情報は「個人情報」である以上、その保護と管理は厳重に行わなければならないが、現実にはハッキング等の外的要因、あるいは管理ミスや管理規定違反等の内的要因により個人にとって不利となる情報が漏洩する恐れがある。場合によっては企業等に対してゲノム情報の提供・売買が行われるケースもある。
■漏洩した情報に基づいて、さまざまな「遺伝子差別」が発生する恐れがある。具体的には企業が社員を採用する基準として「ゲノム情報」を参照し、特定の病気の発症リスクがある人は「採用しない」といった対処を行うケース、現に雇用している社員の「ゲノム情報」を参照して「降格・解雇」といった対処を行うケースがある。
■他にも生命保険や医療保険の加入に際し、「ゲノム情報」を参照して特定の病気の発症リスクがある人は「加入を拒否する」といった対処を行うケース、結婚の際に相手の親族が「ゲノム情報」を参照して特定の病気の発症リスクがある場合には「結婚を認めない」といった対処を行うケースがある。
■ゲノム情報の良し悪しで他者を区別(差別)する発想は実質的に〈優生思想(=すぐれた者のみが生きる価値と権利を有するという思想)〉と同じであり、「個人の尊厳」や「人間としての平等性」を損なう発想である。また「全ゲノム情報」という観点で考えれば、全ての人間がゲノムに何らかのバグ(=誤りや欠陥)を抱えているという事実がある。それが特定の疾患に作用しないからと言って、特定の疾患の発症可能性を持つ人間よりも優れているということはないし、不当な対処を行う権利もない。
■よって「情報管理の徹底」と「差別防止および差別意識排除のための意識改革」が当面の課題となる。
- 関連記事
-
コメント