課題文によれば、「生命知」とは常に変化する環境下において自己の行動を変化させて他者との間に関係を作りながら実社会を生き抜く知であり、「即興劇」的な振る舞いによって「記号」に過ぎなかった自分と他人に「意味」をもたらし、「いのちの与贈循環」を成立させるとされている。医学の分野ではインフォームドコンセントを始め医師と患者のコミュニケーションに関して、特に医師の持つべき資質としてこの「生命知」が考えられる。
患者にとって、客観的な事実は、それだけでは心に響かない。「喫煙が体に害を及ぼしています。禁煙すべきです。」という「記号」は全ての患者に同じように言われる言葉であり、「この私」に向けて発せられた言葉ではない。患者側がそうした言葉の「薄っぺらさ」を感じるなら、医師の言葉がどれほど正しくても忠告に従うことはないと思う。患者にとって大事なのは「この私」に向けられた医師の思いであり、「関係」への意欲なのである。
こうした思いや意欲を伝える前提として、医師はまず「患者」を「尊厳を持った固有の存在」と考え、その存在のことを深く理解し大切にする、という心の構えを身につけなければならない。患者の抱える固有の事情や価値観に耳を傾け、患者の納得できるような提案をその都度考え、相手に合わせて言葉や態度を変えながら「反応」をもらえるように努力する。こうした事柄に関わる知が「生命知」であり、この「生命知」が言葉に「意味」をもたらし、患者と医師に「関係」をもたらし、治療に「協力」をもたらすのである。
このように、医師からの働きかけによって患者との関係が築かれ、患者の反応によって意味のある治療活動が継続していくようなあり方を「いのちの与贈循環」と言っているのだ、と私は考える。課題文にある「世界を動かさんと欲するものは、まず自ら動くべし」という言葉を肝に銘じて、私も将来患者と「即興劇」を続けていける存在になりたい。(792字)
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