【問一】
人間を中心に考える医療の重要性について(19字)
【問二】
筆者は盲聾という世界、文化の中で既に二十年間生きており、その間に得た友人、経験、社会的なつながりが現在の筆者を形づくっている。聴力を回復することはそうした今の筆者を形づくってきたものをすべて否定することになるので、仮に聴力を回復して現在より便利で快適な生活を送れるとしても、そこで得られる生活のありようが筆者にとって豊かなものでもなければ、人生にとって素晴らしいものでもないと筆者が考えているから。(199字)
【問三】
人間中心の医療とは、患者一人一人の幸福感・人生観に寄り添い、それを支えるような医療のことであると私は考える。筆者が課題文で述べているように、「病気が固定したものとしての障害」はもはや「障害」ではなく、今の筆者を形づくっている「生涯」と言うべきものとなる。彼はそこで得た「友人・経験・社会的なつながり」を自分の人生においてかけがえのないものと考え、聴力を回復する治療を受けないだろうと述べている。ならば医療は、彼が彼のままで幸せでいられるような形で彼を支えることが使命となる。
こうした医療のあり方は「ナラティブ中心の医療」「全人的医療」と言われるが、それは「障害」に限らずより身近な場面においても問題となる。例えば入院して良質の医療を提供してもらった方が命を長らえる可能性が高い高齢の患者が、自宅に戻ってこれまで通りの人生を送って命を終えたいと考えて「在宅医療」を望むような場合である。「患者の命の重要性」という点では「在宅」で過ごすことには様々なリスクがあり勧めたくないかもしれないが、「患者の人生の重要性」という点で考えれば、医療はむしろそれを支えるために他の医療従事者やコ・メディカルの人々と協力して適切な医療環境を整えて、最後まで納得のゆく人生を送ってもらうための努力を行うことが望ましい、ということになる。
患者の幸福感や人生観に貢献する医療を行うには医師の側に「多様な人生の価値観に対する想像力」が必要である。医師はその使命感から「病気を治す」「命を長らえる」という視点で患者と向き合いがちだが、まずは患者の思いや考えに真摯に耳を傾け共感できる「人間性」を養わなければならない。また患者の人生を支えるために「チーム」を組む他の医療従事者やコ・メディカルの人々との意思疎通をきちんと行える「コミュニケーション能力」も必要である。これらを肝に銘じて私は自分の使命を果たしていきたいと考える。(791字)
【解説(解答のポイント)】
【問一】
1:「医系小論文」という観点から考えれば、「
医療のあり方」に関する記述があればそれを重視する」という基本姿勢を持つことが大切である。最終段落に「医療のあり方」についての筆者の考えが述べられているので、この部分をまとめて解答を作成する。
【問二】
1:傍線後部の記述を論理的にまとめていく。話の流れを簡単にまとめると、【1】聴力が回復するかもしれない治療方法を受けることが、私(筆者のこと。以下同じ)にとってはプラスではない。【2】私は盲聾という世界・文化の中で20年間過ごし、そこで得た友人・経験・社会的なつながりが今の私を形づくっている(=
つまり盲聾であることは私のアイデンティティの必須要件になっている)。【3】聴力を回復することは今の私を形づくってきたものをすべて否定することになる(=
つまりアイデンティティの否定につながる)。【4】聴力の回復によって得られる新たな生活スタイルは(便利で快適なものかもしれないが)私にとって豊かでもなければ、人生にとって素晴らしいものではない、ということになる。この
【1】から【4】までのトピックをきちんと入れる形で解答を作成する。
【問三】
1:「人間中心の医療とはどのようなものであるべきだと思うか」という設問の指示に合致する記述が【問一】で確認した部分に書かれていることを踏まえ、そこに至るまでの筆者の考えを、自分なりに再度まとめる。
課題文が長く、要求されている字数が多い場合には、こうした「本文に関する言及」と「それに対する自分なりの考察」という作業がある程度求められている、という認識を持って、冒頭の記述を形づくっていくと良いと思う。
2:次に「具体例を挙げ」という設問の指示に即して、第一段落でまとめた要素を反映するような「具体例」を自分で考える。昨今の医系小論文のトレンドは
「QOL」「ナラティブ」「全人的医療」というキーワードで代表されるようなものが多い。そうしたキーワードを
単なる「記号・単語」としてではなく、「医療現場の活動」としてきちんと認識できているかどうかが、この部分で大学側が確認したいことである。「地域医療」や「高齢者医療」に関心を持っている受験生ならば、おそらく容易に例を思い浮かべることができる。今回は「在宅医療」の話を
「SOL(命の重要性)」と「QOL(人生の質の重要性)」との対比を踏まえて記述を行った。
3:最後に「自分は医療の当事者」であるという観点から、こうした「患者一人一人の幸福感・人生観に寄り添い、支える医療」を行うために必要な
自分の資質は何なのか、という点について書き込む。「何が大切なのか」をきちんと書けていても、それが「自分自身のことである」という認識が薄ければ、記述の価値は下がる。
自分が当事者としてそうした自覚をきちんと持っている、ということを表明すると印象が上がる、と理解する。
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