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【小論文解答】:2018年/慶應義塾大学/医学部/本試験/Ⅰ【解説付き】

 末期がんにとって必要なのは、自分の不安な心を支えてくれる「一筋の望み」である。治るかどうかは別として、「がんによく効く湧き水」を飲むことでほんの少しでも自分の生に望みをかけることができるのであれば、私はそれを積極的に受け入れるような言葉をかけるべきではないかと思う。確かに水そのものが患者のがんを回復させる可能性は少ないと思うが、患者の人生にとっての水の意味を考えれば安易に「合理的に考えて意味がない」といった言葉をかけることは厳禁であろう。また「おいしいですか?」「気分が良くなりましたか?」「元気になったように見えますよ」といった言葉で、私がその湧き水を受け入れる態度を示すことは、患者にとって私が「自分の思いを受け入れてくれる存在」と認めてくれる契機となる。その上で、患者にとって本来必要な治療の提案を誠意をもって行えば、その提案に対しては患者も何らかの肯定的な反応を示すのではないか、と私は思う。(398字)

【解説(解答のポイント)】

1:設問で設定されている「条件」を正確に読み解きながら、「患者の生命と幸福にとってどのような選択が最も効果的なのか」を考える設問である。まず「末期がんの患者」という設定は「患者のがんを無くすための方法はもはや存在しない」ということを意味する。こうした患者に「より少しでも少し大きい文字生きのびられる」ための積極的な治療を行うことは、患者の身体的・精神的な負担を増加させるだけであると思われる。ならば焦点は「患者がいかに納得して自分の人生を終えることができるか」にある、ということをまずは理解する。

2:次に「がんによく効く湧き水」という設定は「それを飲むことで患者の病状が急激に悪化する可能性は少ない」ということを意味する。そして患者にとって、その湧き水が精神的に前向きな効果を与える可能性が高いのであれば、単純に「効くか効かないか」という合理性に基づいて、患者の行為を否定するような言動は慎まなければならない。他人にとって取るに足りないものであっても、あるいはそれに託しているその人の思いとそのものとの繋がりがないように見えても、相手にとっての価値がなんらかの形で見出せるものであれば、それは受け入れる方がある意味「合理的」である、という認識が必要である。

3:ただ、末期がんの患者であっても、その痛みを和らげたり、症状を多少は緩和するような医療的措置が可能であり、研修医も「医師」である以上、そうした治療に患者が同意してくれるきっかけを手に入れることは相応に重要であると言える。自分の信じているものを否定する医師を、患者は決して信頼しないだろう。逆に自分の信じているものを受け入れてくれる医師がいれば、その医師のアドバイスに対しては受け入れる可能性が生じる。その目的を達成するために、まずは患者の選択に対して「同意」「共感」といった前向きな対応を示すことは、医師の本来の目的にとってむしろ「合理的」であると考えることもできる。そうした点を踏まえて解答を作成する。

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プロフィール

玄武庵

Author:玄武庵
日本の片隅で予備校講師をしながら旺文社(入試問題正解)・教学社(赤本)等で作問・解答・解説等の仕事をしています。小論文は自分の頭で考えて書くことが一番大事ですが、その際の参考にしてもらえるとうれしいです。頑張ってください。(※コンテンツはすべて無料です)

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