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【小論文解答】:2019年/慶應義塾大学/医学部/本試験【解説付き】

 児童虐待は虐待を行う親の資質の問題もあるが、それよりも虐待を親に行わせている様々な条件が容易に解消できないことが大きな原因としてある。その代表的なものが「認識不足」である。虐待を行う親はそれまでの家庭環境の影響により自分の行為が「虐待」であることを認識していないことも多い。そうした親は得てして自分の行為を「しつけ」「教育」と主張する。この認識のズレが虐待の減らない一つの原因であることは確かだろう。
 また生活や子育てに関わる様々な問題を相談できる相手や助け合える相手が地域コミュニティの中に存在しないことも原因として考えられる。昔の家族は近隣とのつながりが強く、地域全体で生活の助け合いや子育てをしている面があった。現在は各家庭が地域の中で孤立し、自己の抱える問題を相談したり助けてもらうような仕組みが崩壊している。そのはけ口として、子どもが様々な身体的・精神的な虐待の対象になってしまうのである。
 虐待されている子どもの命を救う最後の砦は「病院」である以上、虐待が疑われる場合にはまず病院で親の虐待から子どもを「物理的に」引き離すことは何より重要である。そしてそれに加えて、虐待を未然に防止するための情報を積極的に親に提供する啓発活動、そして孤立した家族が抱える問題を解消するための様々な支援のシステムを充実もこれまで以上に図られるべきである。これにより虐待減少の糸口が見えてくると私は考える。(596字)

【解説(解答のポイント)】

1:この設問は、一昔前の医系小論文の定番テーマであった「学校でのいじめをなくすためにはどうしたらいいか」という設問と基本的に構図が一緒である。昨今の時事問題のトレンドに合わせて「虐待」の話にはなっているものの、背後にある問題と解決策については「いじめ」の話で考えられるものと、大体同じになる。

2:当たり前のことだが「親が悪い」「虐待をする親を厳しく罰する」といった対策は実質的にあまり意味をなさない。いじめを行った子どもを刑務所に入れて厳しく罰しても、それによっていじめがなくなるとは思えない。いじめる人間は「自分が刑務所に入れられないように」より狡猾に見えないところでいじめを続けるだけだろう。虐待を行う親も同じである。加害者の側の抱える問題点をいかに解消するかが、解決のためのポイントとなる

3:医師の治療方法に、当面の問題を緊急に解決するための「対症療法」と、長期的に解決するための「根本療法」があるように、虐待の解消についても、虐待が子どもの身体や精神に大きな影響を与える可能性が大きい場合には、親からの「隔離」「分離」といった「対症療法」的な対策が優先されるべきであろう。そしてそれを担う最も大きな機関が「病院」であることは知っておく必要がある。医師は医療的見地から子供の命を守れる権利を有している。親子関係に対して物理的に干渉することが許されている数少ない存在なのである

4:それと同時に、いじめの解決において「傍観者」の役割が重視されているように、虐待についても「周りの存在」が「根本療法」的な解決のためには非常に大きい。「気づき」「受けとめ」「支え」といった様々な役割を「周りの存在」が果たすことで、「虐待の発生条件」そのものを減らしていくのである。こうした点を踏まえた解答作成が求められる。
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玄武庵

Author:玄武庵
日本の片隅で予備校講師をしながら旺文社(入試問題正解)・教学社(赤本)等で作問・解答・解説等の仕事をしています。小論文は自分の頭で考えて書くことが一番大事ですが、その際の参考にしてもらえるとうれしいです。頑張ってください。(※コンテンツはすべて無料です)

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