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【小論文解答】:自己の「一面性」に気づく(2019年/杏林大学/医学部/本試験/一般)

 人は一般的に「自分の持っている価値観」というものさしで人を評価する。そのものさしは人の一面を正確に捉えることはあるが、それでその人の全てを理解した、ということにはならないだろう。自分に見えているその人の一面の背後には、はるかに多様で豊かな他の側面があり、それはそれとしてきちんと尊重するということが評価する側には求められる。特に自分の評価が相手に影響を及ぼす場合はなおさらそうした態度が重要となる。
 医師という職業は、患者への評価に際して通常よりも高い倫理基準を持つ必要があると私は考える。医師は一般的に患者を「疾患を抱えた存在」というものさしでとらえがちである。もちろん医師の目的が心身の疾患に対する治療・回復である以上、そうした見方は必須である。しかしそうした評価だけに基づく患者へのアプローチや治療が、患者を苦しめたり、患者の側から不満・拒絶という形で目的の遂行を逆に妨げたりすることがある。
 それは「自分の持っている価値観」が相手の一面を捉えているに過ぎない、という自覚の不足が原因であると私は思う。患者は社会においては医師と対等な一個人であり、固有の人生と尊厳とを有した全人的存在である。それを忘れて患者に接すると、どうしても「治すために必要な指示は従って当然」「医師の指示は守って当然」といった態度で接しがちになり、結果として患者の側からの不興を買い、人間同士の信頼関係を喪失するのである。
 「人を評価する」ということは「自分もまた評価する相手から評価される」ということを意味する。相手の尊厳をきちんと評価し接することは、自分もまた相手からそうした存在として評価される、ということになる。それを実現するのは、丁寧な言葉遣いに基づく適切なコミュニケーションである、と私は考える。自分もまた医師を志すものとして、こうした点を意識した対人関係の構築を実現できる考え方や話し方を心がけていきたい。(796字)
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プロフィール

玄武庵

Author:玄武庵
日本の片隅で予備校講師をしながら旺文社(入試問題正解)・教学社(赤本)等で作問・解答・解説等の仕事をしています。小論文は自分の頭で考えて書くことが一番大事ですが、その際の参考にしてもらえるとうれしいです。頑張ってください。(※コンテンツはすべて無料です)

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