「人生、思い通りにいかない」ということついては、身に染みて実感できることが多々ある。自分が今こうして浪人生活を送っていることも、人間関係も、極端なことを言えば数学の問題を一題解くことですら思い通りにいかない。私たちは日々、思い通りにいかないことに囲まれ、くじけたりいらだったりしながら暮らしている。しかし考えてみれば「人生、思い通りにいかない」ことはむしろ「あたりまえ」のことで、そうした困難を受け入れつつ楽しみながら乗り越えていくことが「人生の面白さ」なのではないか、という気もする。とはいえ、困難な状況にある当事者はなかなかそうした発想の転換を行うことが難しい。他者からの何気ない一言や励ましの言葉やちょっとした気遣いが、困難の網の目の中で身動きの取れない当事者の心を引き上げ、前向きな気持ちにさせてくれるのである。
予期せぬ病気や怪我で「患者」となるのは「思い通りにいかない」ことの典型である。癌をはじめとした重い病気にかかった人ならなおさらそうした思いを強く持つ。「なぜこんな苦しい目に遭わなければならないのか」と絶望し、答えのない問いの中でがんじがらめになる。そうした患者を心身両面から支え、前向きに生きる意欲を与えるのが、医師の役割である。治療行為は患者の困難を物理的に取り除き、適切なコミュニケーションや共感の表明は患者の苦しみを精神的に軽減する。こうした支えにより患者は前向きな気持ちを取り戻し、「思い通りにいかない」人生を受け入れつつ前に進むことができるのである。
そしてこのプロセスは「医師」にも当てはまる。「治療行為」もまた「思い通りにいかない」ことの連続だからである。適切な治療を行ってもうまく行かないこともある。どんなに頑張っても治せないことがある。そんな時に「患者」の側からの一言で救われることもあるだろう。「思い通りにいかない」人生とは「支え合い」の人生でもある、と私は思う。(795字)
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