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【小論文解答】:2017年/順天堂大学/医学部/本試験

 私が子猫ならば、まだ目もあかないまま大きな音や振動に取り囲まれている絶望と、身動きが取れないように体を押さえつけられている不安の中で、大きな温かいものに包まれてミルクを口へと入れられることに対して、生きることへの微かな希望と安心の気持ちを抱いているはずである。子猫が目の前の戦場を戦場であると理解することはできないだろうが、恐らくこの子猫は少し前に戦場で母猫とはぐれたか、母猫を失ったと思われる。同時に、今の今まで自分と同じように母猫の乳を吸っていた兄弟も、爆弾か鉄砲の犠牲となったに違いない。唯一の頼りである母親や安心感の源である兄弟を失っている子猫が私なら、私は混乱・絶望・恐怖の中でひたすら怯えることしかできない状態であっただろう。
 そんな中、何かからいきなり体を掴まれれば、恐怖はさらに増す。潰されるか。殺されるか。まだ目が見えないので、何が自分を掴んでいるかはわからない。また非力で小さい自分には、その何かをはねのける力もない。しかしその何かは、自分を握り潰しも殺しもせず、低く優しい鳴き声で語りかけ、自分の口の中にミルクを入れようとしている。この何かは頼るべき存在である。そう信じて、子猫である私はそのミルクに必死に吸い付く。この瞬間に、絶望のみに支配されていた自分の心が少しだけ緩み、だんだんと生きることへの意志・希望が芽生えてくる。それが写真に写っている子猫としての私の思いである。
 感謝、という感情を子猫が抱くかどうかは私には分からない。しかしそれに似た気持ちは持ったのではないかと思う。自分に寄り添い、声をかけ、命を繋いでくれる存在に対しては、どんな動物であっても感謝に似た何らかの気持ちを抱くのではないか。私が将来医師として接する患者もまた、絶望と不安の中で「医師」という存在を頼りにする。その時にはこの兵士のような気持ちで接することが大切なのだ、という思いを私は持った。(794字)
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プロフィール

玄武庵

Author:玄武庵
日本の片隅で予備校講師をしながら旺文社(入試問題正解)・教学社(赤本)等で作問・解答・解説等の仕事をしています。小論文は自分の頭で考えて書くことが一番大事ですが、その際の参考にしてもらえるとうれしいです。頑張ってください。(※コンテンツはすべて無料です)

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