91年から97年にかけて、大学生が学生生活で重点をおくものが「豊かな人間関係」から「勉強」へと変化した背景には、90年頃のバブル崩壊がある。それまでの社会は学歴重視で、よい大学さえ出ていれば割と楽に就職できたが、バブル崩壊後は学歴よりも即戦力となるような有能な人材が求められるようになった。学生の側も、以前のように大学入学後は自分の人生を充実させるという名目で活発な交友活動を行っているわけにもいかず、少しでも勉強して資格を取り、社会の一員として生き残るための努力をしなければならなくなった。従って、こうした大学生の意識の変化は時代の要請に基づくものである以上、彼らが豊かな人間関係を重視しなくなったことをむやみに否定的にとらえることはできない。
しかし一方で、「豊かな人間関係」を学生時代に築くことにも、大きなメリットがある。例えば友人関係では、深く分かり合える喜びや相手への信頼関係、思いやりを学ぶことができる。またアルバイトや部活動、ボランティア活動などで多くの人々と関わることで、様々な人々の生き方や考え方に共感し、立場の違いを踏まえた上で多面的なものの見方ができるようになる。実際にこうした人間関係で培った能力の方が、社会に出た時には自分を生かす武器になるし、他者との信頼関係の基礎ともなる。そうした信頼関係と勉強とが相乗的に効果を発揮することによって、人は本当に人の役に立つことができるのである。
だから私たちは、勉強することの大切さを自覚しつつ、人と関わることで得られるものの大きさも、同じように理解して両立を目指してゆかなければならない、と私は考える。とりわけ自分が将来なろうとしている医師という職業では、相手に対する親身さと、治療技術の高さが同時に要求される。私も大学生として「文武両道」ならぬ「文人両道」を目指して、時代に左右されない人間形成を目指して頑張ってゆきたい、と考えている。(793字)
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