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【コラム】:小論文における「思う」「考える」の使用について(3)

 今私の手元にある私立大学医学部の過去問のコピーから、末尾表現のみを取り出して列挙してみる。

 ●~あなたの考えを600字以内で述べなさい。(2017年/岩手医科大学)
 ●~あなたの考えを述べなさい。(2017年/昭和大学/2月4日・2月5日分)
 ●あなたは~考えますか。~500字以内で具体的に述べてください。(2017年/東海大学/2月11日分)
 ●あなたの考えを600字以内で述べなさい。(2017年/獨協医科大学/2月6日・2月7日分)
 ●~どのように~考えるか、~述べなさい。(2017年/北里大学/2月4日分)
 ●あなたの考える~論述しなさい。(2017年/北里大学/2月5日分)
 ●あなたの考えを~論述しなさい。(2016年/日本大学)
 ●あなたならどのように答えるか、~述べよ。(2017年/愛知医科大学/2月2日分)
 ●主人公になった立場で600字以内で創作せよ。(2017年/愛知医科大学/2月3日分)
 ●600字以内であなたの考えを述べよ。(2017年/川崎医科大学)

  ほぼ全ての設問に共通しているのは、「あなたの考えを述べよ」ということである。問いかけられているのは「あなた」であり、求められているのは「あなたの考え」であることがわかる。これを見ても、出題者の要求が「主観の表明」であり、資質の有無は「主観の客観性」によって判断されているであろうことは容易に推測可能である。

  「君はXについてどう考える?」という問いに対して「XはYである。」といった答え方は明らかに異常である。それは「XはYである。」という表明の形式が、通常「『真理』『事実』の表明」に用いられるものであり、「『価値』『主観』の表明」に用いられるものではないからである。そもそも、通常の「論文」において、執筆者に誰かから何らかの価値判断に関する「課題」が課せられる、といった事態は想定できない。執筆者には自分なりの手法で発見した、ある現象に関する「事実」を、自分で課題として設定して論述を行うか、「事実」として存在する可能性がある仮説を自分なりの手法で証明する、そのプロセスを論述するか、ある「事実」の積み重ねによって推測される客観性の高い「新たな事実」を論述するかのいずれかのことが求められているのであって、「あなたの考え」なるものが要求されることはない。つまり「論文」の執筆者は「自分の考え」など表明する必要などないのである。

  しかし上記の列挙で確認できるように、医学部の「小論文」で求められているのは、あくまでも「あなたの考え」である。「君はXについてどう考える?」と問われれば、「私はXはYだと考える」と答えるのが普通である。その常識的な感覚を、常識的な表現で、そのまま表明すれば、それで「小論文」を書いたことになる、というのが私の考えである。別に立派な意見を表明する必要はないし、オリジナリティも必要はない。「小論文」を書いた「特定の個人」の「主観の客観性」が判別できれば、出題者は満足なのである。

  以上、3回にわたって「思う」「考える」の使用の妥当性について論じてみた。何故このような、言ってみれば「取るに足りない」ことを長々と論じてみようと思ったかと言うと、生徒に小論文を書かせようとすると、いつも「思う、考える、といった表現を用いてもいいんでしょうか。参考書の〇〇には『使ってはいけない』と書いてあったんですけど」という質問があり、正直うんざりしていたからである。生徒には正直こんなどうでもいいことで悩んで欲しくない、というのが私の正直な気持ちである。しかし小論文の記述経験が少なく、なおかつ自己の記述の正当性を「権威」に頼らざるを得ない生徒にとっては、こんなちょっとしたことが「大きな不安」につながる。「思う」と書いたら不合格になるかもしれない、と彼らは本気で心配するのである。それは仕方のないことで、医学部という「狭き門」をクリアするためのリスクは、少しでも減らして置きたいと、彼らは切実に思っているのである。だから教える側もこうしたどうでも良いことであっても「哲学」として考察し、「現象」としてプロファイリングを行い、少しでも客観性の高い結論を出しておく必要がある。この試みが、生徒の不安の軽減の一助になることを望む。

  最後に、過去から現在に至る、実際の生徒の「小論文」の出来の状況について少しだけ述べる。私の知る限りでは、このやり方で全国模試で1位の生徒1人、2位の生徒が1人いた。もちろん「私は~と思う/考える」という記述形式である。大学の側の点数開示、および何らかの仕方で点数の伝達があった者についても、満点2人、ほぼ満点数人を確認している(当事者からの伝達のみ。調査はしていない)。大学の合否については他教科との総合力によって決定されるので、今回は考慮に入れない。要は「思う」「考える」系の言葉の使用が、医学部受験小論文において減点となるような要因にはなっていない、ということを言いたいだけである。「小論文」において「思う」「考える」は(設問で大学側から禁止の通達が出ていない限り)使用しても良い。このことを以て本論の結論とする。
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玄武庵

Author:玄武庵
予備校講師をしながら旺文社(入試問題正解)・教学社(赤本)・Z会(実戦模試)等で作問・解答・解説等の仕事をしています。小論文は自分の頭で考えて書くことが一番大事ですが、その際の参考にしてもらえるとうれしいです。頑張ってください。(※コンテンツはすべて無料です)

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