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【コラム】:小論文における「思う」「考える」の使用について(1)

  いわゆる「小論文の書き方」に類する参考書や問題集においては、「~と思う・考える系」の使用を禁止したり、控えたりするように、という指示を頻繁に見かける。一方、私の小論文の解答では、見て頂ければわかるように「思う」「考える」という表現が頻繁に用いられている。参考書や問題集の執筆者からすれば、私の小論文の解答は「失格解答」であり、それをあたかも「模範解答」であるかのようにブログに掲載する、という行為は受験生を幻惑させ不合格へと導く「デマゴ-グ(扇動者)」的行為と見なされるはずである。もちろん、私は「思う」「考える」という記述を「意図的」に行っている。理由は簡単で、医系小論文において「思う・考える系」の表現は必須である、と考えているからである。何故そう考えているのか、ということを述べる前に、そもそも何故小論文において「思う・考える系」の表現が排除すべき表現であると考えられているのか、ということから分析する。

  彼らが「思う」「考える」という表現を排除すべき、と考えているのは、第一に「小論文」とは「小『論文』」のことだと勘違いしているからだ、と私は思う。「論文」とは通常、大学卒業時のいわゆる「学士論文」や、職業学者が公的な論文掲載誌・大学の紀要などに掲載するための「学術論文」のことを指す。文系においても理系においても、「論文」の価値はその「客観性」によって担保される。「ボクの考えた宇宙の成り立ち」といったような論文は担保すべき「客観性」を持たないため、「論文」としては無価値となる。

  それでは「客観性」とは一体何のことを指しているのか。簡単に言えば「事実の積み重ねに基づく論理的必然性」のことを指している。朝寝坊をしたのに朝食をゆっくり取った上、始業1分前発車の電車に20分乗って登校したとするならば、「遅刻」という事態はほぼ確定する。これは「朝寝坊」「ゆっくりとした朝食」「始業時間に間に合わない電車での登校」という事実が積み重なることで、「遅刻」という事態が論理的に必然性を持つものとして導き出される、ということを意味する。こうした状況下において、「私は遅刻をすると思う」という表現は、常識的に考えて不可解である。ここでの「遅刻」は誰にとっても明らかな事であって、「私はそう思うけれども他の人はそう思わないかもしれない」といった「主観的」な事柄ではないからである。

  そして「論文」はその前提条件として「客観性」がなければならない。何故ならば「論文」を読む者にとって、その論文が「他者である私」にとっても「正しい」と思えるものでなければ意味がないからである。これを大変難しい言葉で言い換えるなら、「学問は公共の利益に資する情報を提供することを責務とするため、その情報は客観性を有するものでなければならない」ということになる。従って、「論文」を書く者は、自己の記述内容が「客観性」を持っているかどうかを慎重に吟味する。大学の「学士論文」程度であれば、その「客観性」に(未熟であるゆえの)問題が多くあるため、事前に指導教官からのチェックが入る。またいっぱしの大人が「論文」を書く場合には、同じような立場の人間から(この「論文」内容の客観性は疑わしいのではないか、という)指摘が入る。これが「批判」である。「論文」は批判を受けることが普通であり、さらにその「批判」に耐え得るものでなければならない。

  よって、「論文」において表明されるべきは「事実」であって「意見」ではない。「事実」とは、それを支える「複数の事実」から「論理的必然性」によって導き出される「客観性を持った新たな事実」のことである。「論文」の執筆者は、そうした「論文」の条件を熟知しているので、あらかじめ自分の書こうとしていることが「客観的」であるかどうかを精査し、確信を持った上で記述を行う。だからこそ主語には「私」ではなく、より公共性の高い「われわれ」を用いるし、結論は「思う・考える系」ではなく「~である」を用いるのである。「われわれ」プラス「~である」という表現は、執筆者の精査と自負と責任の結晶なのである。もっとも、大半の学生と一部の学者は、そういった前提を理解していない。彼らはただ、「客観性を示すためには『われわれは~である』と書くべきだ」と教えられて、それをそのまま実践しているだけなのである。

  こうした考えが、そのまま「小論文」でも適用できる、と考えているのが、「思う・考える系表現の排除」を表明する者である。その論理的根拠は「小論文は小『論文』である」という発想にある。そうした発想が「小論文」では(基本的に)求められていない、ということを次回説明する(続く)。
  
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玄武庵

Author:玄武庵
日本の片隅で予備校講師をしながら旺文社(入試問題正解)・教学社(赤本)等で作問・解答・解説等の仕事をしています。小論文は自分の頭で考えて書くことが一番大事ですが、その際の参考にしてもらえるとうれしいです。頑張ってください。(※コンテンツはすべて無料です)

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