雪のちらつく大晦日、私は喫茶店で途方に暮れていた。田舎暮らしが嫌で都会に出てきて5年、OLの仕事は思っていたほど楽しくはなかった。クリスマスに彼氏と別れ、もうどうでもいいやと思ってアイスコーヒーを飲んでいると、涙が湧いてきて止まらなくなった。
その時携帯電話が鳴った。父からだった。「何よ」とつっけんどんに言うと、「いや、何でもないんだけどな、声が聞きたかったんだよ」と父は言った。私は鼻水をすすりながら「私は元気だから、いい正月を迎えてね。じゃあね」と言って電話を切ろうとした。すると父は「お母さん心配してるから、たまには帰ってこいよ」と言って電話を切った。何よ、人の気も知らないで、と思いながら店を出ると、外は大雪だった。大晦日の街は静まり返って、人も車も少なかった。静かな闇の中で、突然私は迷子になったような気がした。
不意に、私が子どもの頃、道に迷ったことを思い出した。今日と同じような夜に、私は大人気取りで散歩に出た。そして何もない田舎の真ん中で道に迷ってしまったのだ。母が大声で私を呼んで闇の中から現われた時、私は母の胸に飛びついて泣きじゃくった。
都会へ出ることを反対されてから、母とは疎遠になっていた。でも母は今でも私のことを心配してくれているのだ。私は雪の街を歩きながら電話をかけた。「もしもし、お母さん?私は元気だよ」。母の懐かしい声が聞こえた。もう少しこの街で頑張ってゆこうと思った。(590字)
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