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【小論文解答】:2016年/順天堂大学/医学部/本試験

 彼の前には、矛盾した世界が広がっていると私は考える。まず私が気になるのは、彼が顔と手を押し付けている大きなガラス窓である。それは恐らく商店の扉に据え付けられたものだろう。通常の窓であれば彼の背では届かない。この写真では彼の上半身が全て見えている。ということは、彼は商店の扉のガラスの下部に張り付いているのである。次に、彼はきれいに仕立てられた上等な服を着ている。恐らく彼は裕福な家の子どもで、親に連れられてどこかの商店に入ったのだろう。ガラスに押し付けられた彼の顔は、決して笑っていない。目は大きく見開かれているが、表情は硬く暗い。口元を見ると少し怯えている気配もある。それでも目の前で起こっていることを必死に見ようとしているようである。
 1950年代のアメリカを想像すると、恐らく町は活気にあふれているはずである。多くの人と自動車が行き交い、近代的なビルが建ち並ぶ。これから世界の覇者として飛躍的な発展を遂げる町の姿が見えてくる。しかし彼が見ているのは、その発展に取り残された人々の姿ではないか、と私は思う。例えば、きれいなビルの端でぼろを身に纏ってとぼとぼ歩く老人の姿。走り去る車の後ろで破れた靴を履いて物乞いをする移民の子ども。バスへの乗車を拒否されてうなだれる黒人。人生の勝者の陰で、みじめな思いをして生きている人々の姿を、彼は目に焼き付けているように私には思われる。繁栄と格差という矛盾を目の当たりにしながら、彼は裕福な自分の身の上を複雑な気持ちで顧みているのかもしれない。
 他者、特に弱者に対するこうしたまなざしは、この矛盾した世界を良くするためのささやかなきっかけである。そして子どもの頃は、みなそうしたまなざしを世界に向けていたのではないかと思う。彼はその後どういう人生を送ったのか。それはこれから私がどのような人生を送るのか、ということと深く重なり合っているのではないか、と私は考えた。(795字)
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玄武庵

Author:玄武庵
予備校講師をしながら旺文社(入試問題正解)・教学社(赤本)・Z会(実戦模試)等で作問・解答・解説等の仕事をしています。小論文は自分の頭で考えて書くことが一番大事ですが、その際の参考にしてもらえるとうれしいです。頑張ってください。(※コンテンツはすべて無料です)

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