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【小論文解答】:2014年/順天堂大学/医学部/本試験

 まずこの写真を見て思うことは、構図の異様さである。通常なら主役となるべき地上の風景や青空は大胆に切り取られ、水面の一部に気配を映すだけである。そして写真の9割を占める水面の大半は黒々とした闇になっていて、その右下に、満月の明かりのようなものがおぼろに映っている。この写真には「心の秘境」という題がついているそうだが、考えてみれば私たちの心もこうした構図になっている。日常生活の大半を占める他者との関わりにおいて、私たちは与えられた役割に従って自分を演じている。表面上は明るく陽気に振る舞っていても、心の中は真っ暗闇、ということもよくある。人に弱みは見せたくない。暗いと思われたくない。そう思って日々を頑張っているのだが、自分自身に向き合えば、そこには悩みや苦しみを抱えた自分の姿が見える。心とはそういうものだと思う。
 ならばこの写真の右下にある「明かり」はいったい何なのだろうと思う。闇に飲まれそうになりながら闇を照らしている弱々しい明かりは、実はもう一つの他者の姿ではないか、と私には思える。私たちは一人で頑張って生きているようでも、実は多くの人々の気遣いの中で生きている。例えばそれは両親であり、友達であり、近所の人であり、先生である。彼らは表向きは何も言わないけれど、私の心の闇を知っていて、ひそかに心配している。そうした彼らの思いが私の心の闇をほんのり照らし、私は自分自身が生きることを肯定する。裏を返せば、表面的であると考えていた日常生活を通して、人は見えないはずの他者の心の闇をかすかに捉え、そこに思いを馳せている。そうした相互の「思い合い」の中に、人間の本質はある。自分が将来医師になるということは、単に表面的に病気と向き合うだけなのではなくて、その背後にある人間の心に向き合うことでもある。私の思いが、他者の「心の秘境」に点るおぼろな光となれるよう、しっかり生きてゆきたいと私は思った。(795字)
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プロフィール

玄武庵

Author:玄武庵
日本の片隅で予備校講師をしながら旺文社(入試問題正解)・教学社(赤本)等で作問・解答・解説等の仕事をしています。小論文は自分の頭で考えて書くことが一番大事ですが、その際の参考にしてもらえるとうれしいです。頑張ってください。(※コンテンツはすべて無料です)

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