理想の医学教育とは、地域社会に貢献するとともに、世界の医療の進歩に寄与するような優秀な医師を育てる教育のことである、と私は考える。なぜなら現在の地域社会や医療界が、そうした医師の輩出を大学の医学部に求めていると考えられるからである。
現在、地域社会においては高齢化や過疎化が急速に進行し、それに伴いプライマリーケアの担い手が切実に必要とされている。プライマリーケアの担い手には、様々な世代の診察や治療に対応できるための広範な医療分野における豊富な知識と技術だけでなく、地域医療特有の「顔の見える医療」「尊厳を重視した医療」が行えるような高いコミュニケーション能力やきめ細かな配慮・思いやりが求められる。したがって医学教育では、多様な医療分野に対応できる基礎学力や技術力を養成するとともに、臨床を通したコミュニケーション能力や人間性を養成できるような教育カリキュラムの構築が重要となると思われる。
一方、大きな視野で見ると、現在の世界の医療は日々急速な進歩を遂げている。花形である再生医療やIT医療だけでなく、感染症や癌をはじめとする様々な医療分野で、患者の命を救いQOLの向上に繋がるような多くの研究が行われている。そうした研究をさらに加速させ、人類の健康に貢献できるような優秀な医師を輩出することも、医学教育の大切な責務となる。そのためにはそれぞれの専門分野での高いレベルでの基礎学力を養成するとともに、最先端の医療の現状を知り、柔軟な発想で新しい医療技術を自ら生みだせるような思考力を養成できるような教育カリキュラムが、医学部には求められるのである。
そしてその上で、こうした「臨床」と「研究」のそれぞれの分野における成果がお互いの領域に還元され、「高度な知識や技術を持った臨床医」「患者の顔や思いをきちんとイメージできる研究医」を輩出できることが、理想の医学教育なのだ、と私は結論付ける。(791字)
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