日本では今後、高齢化がますます進む。そして高齢者の大半は生活習慣に基づく何らかの疾患を抱えながら、地域社会の中で尊厳のある生活を保つための自立・自活を目指して必死に生きて行くことになる。また地方では過疎化が進み、医師不足のために医療格差が発生する。高齢者はもちろん、働き盛りの世代やその子供たちが、医療に対する不安を抱えながら生活を続けてゆかなければならない。一方で先進医療の進歩も著しく、認知症や癌、糖尿病といった治癒困難な病気に対する暫定的な治療法も次々に確立してゆくだろうと思われる。したがってこれからの医療は、個人の尊厳へと向かうミクロな視点と、多くの人々への貢献へと向かうマクロな視点へと、視野が両極に伸びてゆく形で発展して行く。
こうした時代を見据えた理想の医師像とは、個人のナラティブな生を最大限に尊重しつつ、それを守るための様々な知識と技術を駆使できるような存在、ということになる。例えばそれは、地域に根差した総合医として患者のために奔走しながら、患者の命を救い、QOLを向上させるための医療知識や技術を日々学び続ける医師の姿となってあらわれてくる。病気や怪我を抱えて病院にやってくる人、往診先で病床にある高齢者、納得行く死を願いながら残り少ない命を必死に生きている終末期患者、といった人々の言葉や思いに寄り添い、気軽に言葉を交わしながら、医療でできる最善の方策を提案し、実行できるような医師がいれば、その地域の人々はきっと安心してそれぞれの人生を過ごせる筈である。
そうした理想を実現するためには、医師はこれまで以上に知識や技術のみならず、人間性やコミュニケーション能力も磨いてゆかなければならない。もちろん、私自身も例外ではない。医師としての使命感と、人の幸せを自分の幸せと考える医療人の価値観を根底に置いて、私も時代を見据えた理想の医師となるべく精進を重ねていきたい、と考える。(795字)
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