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昭和大学医学部小論文について(2022年改訂)

 以前は「昭和大学の医療理念や昭和大学の重視するチーム医療の役割(昭和大学に対する興味・関心と医療人としての心構えを確認する)」と「医師という仕事の意味や役割、医療についての鳥瞰的・俯瞰的考察(医療人としての哲学的・論理的思考の有無を確認する)」という、次元の異なる2つのタイプの小論文が隔年で出題されていたが、現在は作問担当者が(おそらく)変わったためか、小論文の質も、小論文を通して確認したい資質に関する内容も変化している。それを確認するために、ここ数年の出題内容を(手持ちの資料でわかる範囲で)以下に確認すると、

 【2015年】:「健康寿命と平均寿命」/「安楽死と尊厳死」
 【2016年】:「とことん型とまあまあ型」/「選挙権の年齢引き下げについて」
 【2017年】:「労働と遊び」/「医療における人間とAIとの共存」
 【2018年】:「医師のワークライフバランスと女性医師の役割」/「愛するという技術」
 【2019年】:「多剤耐性菌と抗生物質」/「ゲノム研究における倫理のあり方」
 【2020年】:「コロナ影響下における国家間の医療連携」/「研究してみたい医療分野を具体的に」
 【2021年】:「遺伝子疾患患者に対する診療上の注意点」/「SDGs」
 【2022年】:「コロナ下の子供のサポート」/「オンライン医療」

となっている。これらの出題に共通しているのは、

 ①:現在、もしくは現在進行形(未解決含む)の医療問題・医療時事問題に関する出題であること。
 ②:単なる考え方だけではなく、具体的な対処に関する記述を求める傾向がやや高いこと。
 ③:1つの「ものの見方」や「考え方」だけでは処理しにくい出題であること。

ということである。これに関して【2015年】の「安楽死と尊厳死」を例に挙げて説明してみる。

 まず「安楽死」と「尊厳死」の問題については「現在、もしくは現在進行形の医療問題・医療時事問題であり、現在でも未解決の問題である(①)」。そしてこの問題を解決するためには「積極的安楽死を尊厳死の1つとして認めるかどうかに関して具体的に答えを出していかなければならない(②)」。さらには「(消極的)安楽死=尊厳死という、従来のものの見方か考え方から離れ、尊厳死とはどういう死なのか、ということを考え直さなければならない(③)」というかたちで、この主題が①~③までの 要件を含んでいることがわかる。他の出題も「完全に一致」とまではいかないが、上記の要件をなにがしかの形で含んでいると考えることができるのである。

 では最後に、これらの小論文を通して確認したい「受験生の資質」とは何かについて述べる。端的に言えば、以下の3点に集約されるだろう。すなわち、

 1⃣:医療人のあるべき姿(患者に対する心構えや考え方)に関して、ある程度真剣に考え、それを言葉のかたちで表明できる能力。そしてその考えと、現在社会で問題となっている医療問題・医療時事問題とを結び付け、説明できる能力。簡単に言い換えると「自分の将来について真面目に考え、医療に対する興味・関心を持ち、それを自分の考えとして言葉にできるほど、自分と医療のことを真剣に考えているか」ということである。この点に関しては2014年以前の出題意図と同じであるし、ある意味これはどの大学の出題意図でもある。

 ただし注意しなければならないのは、これは「本気で医師になりたいか?」ということを聞いているわけではない、ということである。そうではなくて「本気で医師になりたいという人間は、自分が将来医師になったらどういう事態と向き合うことになるのかを自覚し、また現在の医療問題や世の中の動向に相応の興味を持ち、それらに関して今の段階で色々考え始めているはずであるが、あなたはそういう意味で本気で医師になりたいという人間なのか?」ということが聞かれているのである。

 2⃣:物事を「論理的・相対的」に考える能力。通常「論理的である」とは、ある事柄について「私はAと考える。なぜならBだからだ。よってCとすべきである」という考え方ができ、かつA→B→Cの間に論理の破綻が無い状態、だと考えられる。しかしこれに「相対的」が加わると、「Aの立場で考えればBとなるし、Cの立場で考えればDとなる。しかし大切なのはEという観点からDを取り入れつつBBを取り入れつつD)と理解し、Fをを進めていくべきだと私は考える」といった形で思考が進む。こうした見方が(ある程度)できる人材が欲しい、というのが大学側の意図ではないかと思われる。

 3⃣:他者のことを具体的に考えられる「想像力」。例えば【2021年】の「遺伝子疾患患者に対する診療上の注意点」などが典型であるが「自分が不適切な対処を行うことで、遺伝子疾患患者に対してどのような不利益を与えるのか、それによって遺伝子疾患患者はどれほど困るのか」ということについてなるだけ具体的に考えることで、ようやく解答の糸口が見えてくる。つまり「他者を大切に思う気持ち」こそが「医療人の重要な資質」であると出題者は考えているのではないか、と私には思われる。

 自分の医師としての将来を真剣に考える、ということは、他者(患者)の人生と未来を真剣に考えることに他ならない。それがわかっているかどうかを、出題者は小論文を通して確認したいのだと私は考える。

 よって昭和大学を主たる志望校とする生徒は、新聞やインターネットを通して、今日本の(もしくは海外の)医療の世界で何が起こっているのかということを知って、それについて自分なりに考えておいて欲しいし、そればかりではなく、1人1人の患者や医療従事者に焦点を当てた医療コラム(例えば読売新聞「医療ルネサンス」)などを読んで、患者や他の医療従事者の思いに対して理解を深めていくとよい。そうした経験を積んで、例えば昭和大学の「パンフレット」などを読み直すと、その記述内容の1つ1つに「思い当たること」ができて来る。その上で昭和大学の小論文の「過去問」を見直すと、パンフレットの内容と出題内容との間に「何らかのつながり」が見出せるようになるだろう。それがわかってくると、解答を書く際の「精神的負担や不安」はある程度軽減すると思われる。うまく書ける必要はない。また書いた事柄が「間違って」いてもよい良き医療人の卵として色々考えて書いた、ということが分かるような内容であれば、うまくなくても間違っていても十分評価されるはずである。




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プロフィール

玄武庵

Author:玄武庵
日本の片隅で予備校講師をしながら旺文社(入試問題正解)・教学社(赤本)等で作問・解答・解説等の仕事をしています。小論文は自分の頭で考えて書くことが一番大事ですが、その際の参考にしてもらえるとうれしいです。頑張ってください。(※コンテンツはすべて無料です)

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