全人的医療とは、患者を病気を持った身体と捉えるのではなく、社会の中でかけがえのない人生を送ってきた一人の人間、一個の「人格」と捉え、その尊厳を十分に理解しながら行う治療のことである。したがって全人的医療においては治療の方針や実際の治療のみならず、治療後に行うケアを含めて「それが患者の尊厳を重視したものか、患者の人生を幸福にするものか」という観点から検討された上で、最善の処置を行うことが求められる。
こうした全人的医療を行うために必要なことは、まず医師一人だけの視点で患者を捉えるのではなく、多面的な視点で捉えられるような「チーム」を作り上げることである、と私は考える。看護師や薬剤師、臨床検査技師、PTやOTといった医療従事者から見える患者像を医師の患者像と重ね合わせ、患者の仕事や家庭環境、人生観を踏まえた上で治療の方針を決定し、それぞれが自分の役割を十分に発揮して治療を行うことが必要である。
その際、医師は多様な治療の可能性に対応できるような医療知識や技術を持つことが要求される。そのために医師は、常日頃から飽くなき向上心と好奇心を持って、医療に関する勉強を続けなければならない。そうすることで、全人的医療を行うチーム医療のリーダーとして、他の医療従事者に適切な指示を下すことができるからである。臨床との両立は大変かもしれないが、それが医師の使命であることを肝に銘じて努力を続けるべきである。
加えて、医師にはコミュニケーションを通した患者との信頼関係を構築する能力も要求される。全人的医療の主人公は患者自身である以上、患者が医師に信頼を寄せ、治療に積極的に協力することが全人的医療の要になるからである。患者の言葉に耳を傾け、患者の思いに寄り添いながら、誠意を持って向き合うことで、患者は医師に心を開き、医師の治療方針を受け入れる。こういった努力の積み重ねが、全人的医療を実現させるのである。(795字)
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