(要約)
コオロギを卵の時から他の個体から引き離してコンタクトを持たせずに育てると、集団生活を送ったコオロギよりもはるかに強い凶暴性を示す。この凶暴性の度合いは成育環境にある触れ合いの度合に概ね比例する。またコオロギは恵まれ過ぎた環境の中で育てられると、飛行能力があるにもかかわらず飛ばなくなる。一方自然環境に近い状況で育てたコオロギには相応の生命力が備わる。これらはヒトにも通ずることだと長尾教授は考える。(199字)
(論述)
要約で述べたコオロギの実験結果がヒトにも通ずるという長尾教授の考えに対して、一部同意するが、違う面もあると考える。同意するのは後半の恵まれすぎた環境が本来の機能を低下させる、という点である。こうした傾向は、特に高齢者の問題を考えるときに重要となる。高齢になると病気や怪我、老化のために身体の動きが鈍くなるとともに、精神面でも一つ一つの動作に苦痛や面倒さを感じるようになる。そうした高齢者のために家屋をバリアフリーにし、手厚い介護を行えば、高齢者はますます自分で何かをすることを億劫がり、遠からず何もできない体になってしまう。楽をさせることによってQOLを向上させようとする試みは、最終的に高齢者のQOLを奪ってしまうことになるのである。少し大変でも、これまでの生活のリズムを崩さず、できる限りのことは自分でしてもらうようにする方が、高齢者は自分で自立して生きることの喜びを保つことができるのである。
一方で、違うのではと思ったのは隔離することによって凶暴性が強くなる、という点である。人間でも他者とのつながりから離れ、部屋に閉じこもっているニートのような存在が問題になっているが、彼らの大半はむしろ凶暴性からはかけ離れているように私は思う。人間が凶暴になる原因はさまざまであり、一部を取り出して因果関係を設定するのは、一つの偏見を他者に押し付けることになる。人間独自の見方も大切ではないかと私は考える。(597字)
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