(要約)
コオロギを卵の時から他の個体から引き離してコンタクトを持たせずに育てると、集団生活を送ったコオロギよりもはるかに強い凶暴性を示す。この凶暴性の度合いは成育環境にある触れ合いの度合に概ね比例する。またコオロギは恵まれ過ぎた環境の中で育てられると、飛行能力があるにもかかわらず飛ばなくなる。一方自然環境に近い状況で育てたコオロギには相応の生命力が備わる。これらはヒトにも通ずることだと長尾教授は考える。(199字)
(論述)
要約で述べたコオロギの実験結果がヒトにも通ずるという長尾教授の考えに対して、私は一部同意するが、違う面もあると考える。例えばインターネットコオロギのように他者との接触を極度に絶った人が存在するのは事実であり、その一部が非人間的な凶悪犯罪を引き起こしていることもまた否定できない。また実際に凶悪犯罪を引き起こさなくても、文字通りインターネットでの情報を介した他者とのやり取りの中で、言葉を用いた暴力を行使することも多く見受けられる。しかし全ての引きこもりが凶暴化するとは思えないし、インターネットは直接の接触はなくても人と人とを情報で結びつけ、誤解や偏見から人を解放し、他者に対する寛容の精神を思い起こさせることもある、という点も見逃せない。
人の世界では、逆に密な結びつきによって凶悪化が進む場合もある。例えば最近ではラインでのやり取りをめぐっていじめや殺人に発展するケースがあるが、こうした関係の過密化による凶悪化は、他の生物でも普通に見受けられることではないかと思う。幼魚を水槽の中で過密状態にすると共食いを始めるということは良く知られている。つまり物事の一面だけを切り出して普遍化しようとすると、そこから見える像はどうしても歪んでしまうのである。確かに他の生き物の生態から人間に得られる教訓はあり、それは自己を律するためには有益だが、安易に普遍化することへの警戒もまた必要なことなのだと私は思う。(598字)
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