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【小論文解答】:2014年/昭和大学/医学部/2月8日分

 生物に寿命があることが「巧妙」である理由は、種の維持のために最も重要な遺伝子を健全な形で保持し続けることができる点にある。寿命が存在しない場合、個体が長期間生き続けることで遺伝子が損傷を被り、種の維持が不可能になってしまう。種というレベルでは、遺伝子を維持できない古い個体を消滅させるとともに、生殖活動を促して新しい健全な個体に遺伝子を移し変える、「巧妙」なシステムが種としての生命を維持するのである。
 しかし同じことを個体の生命というレベルで考えると、生まれた瞬間に死が運命付けられている点で「冷酷」であると言える。特に人間は意識を持ち、「人生」という形でかけがえのない固有性を持った生命活動を行う。しかし「私」という意識を持って営んできた人生は必ず死を以て無に帰す。楽しかった記憶も消え、親しい仲間とも二度と会えなくなる。つまり「寿命」とは自己の消滅の絶対的な約束としての「冷酷」さを持っているのである。
 だが人間の場合は、「死」をもって自己の消滅を意味しないのではないか、と私は思う。人間は言葉を持ち、それを用いて歴史や文化を築いてきた。また社会を作り家族を含めた社会の中で過去からの遺産を受け継ぎ、役割を与えられ、自分の得たものを次の世代に引き継ぐ。この受け継ぎと引き継ぎの循環の中で、個人は種という大きな生命の流れの一部として永遠に生き続ける。そのことは、実は全ての生物にも当てはまるのだと私は思う。(597字)
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玄武庵

Author:玄武庵
日本の片隅で予備校講師をしながら旺文社(入試問題正解)・教学社(赤本)等で作問・解答・解説等の仕事をしています。小論文は自分の頭で考えて書くことが一番大事ですが、その際の参考にしてもらえるとうれしいです。頑張ってください。(※コンテンツはすべて無料です)

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