「大学の志望理由」の目的は、「受験生が自分の大学のことを知った上で受験しに来ているか」ということと、「医師の志望理由と大学の志望理由との間に整合性があるか」ということを確認することである。もちろん、面接官は受験生が複数の大学を受験していることは百も承知である。しかしながらそのことと「この大学に受験しに来ていること」とは別のことである。「女であれば誰でも良い」という気持ちで、相手のことも良く知らずに適当に告白しても(大体は)振られるのと同じように、「医学部であればどこでも良い」という気持ちで、自分の受験する大学のことも知らずに「入りたい」と言われても、「何で?」と思われるのは当然である。面接官は少なくとも、自分が仕事をしている大学については、相応の誇りを持っている。他の大学と比較しても、自慢できるところや活動も、おそらくたくさんあるはずである。そうしたことを十分承知して面接官に語ることは、すなわち「あなたでなければならない」理由をきちんとアピールして愛を告白することと同じで、相手の印象を大変良いものにするのである。だから「大学の志望理由」を述べることは「大学への愛を語ることなのだ」と私は授業でよく述べている。
パンフレットに書かれていることはもちろん知っておかなければならないが、それ以外のことについても、インターネット等でよく調べて、何かあったら言えるようにしておかなければならない。実際、パンフレットだけで知識を整理してしまうと、やっていることは他の大学と大体同じようなものになってしまうので、それを言ったところで仕方がないこともあるのである。例えば「PBLチュートリアル」という制度はどこの大学でも大抵はやっている。それを「この大学の志望理由」として言ったとしても「それは他の大学でもやっているよね」と言われておしまいである(実例あり)。建学の精神や実際の活動等についても、手に入る限りの情報は事前に入れておくことが望ましい。
また「大学の志望理由」を述べる場合、それが「自己の医師の志望理由」に繋がっているかどうかも意識しなければならない。地方で開業医を目指すことが医師の志望理由であるのに、大学の志望理由で「ドクターヘリがある」と言っても、つじつまが合わない。自分の目指しているものと、大学が目指そうとしているものとの間に整合性があれば、それ自身が自己の医師としての志望理由を補強することにもなるし、大学のこともよく分かっていることにもなる。つまり受験生の印象を相乗的に高めることになるのである。
これは逆に言えば、面接官は「志望動機のはっきりしない者」「将来をはっきり決めていない者」をあまり好まない、ということにもなる。たしかに自分がどのような科の医師に向いているか、ということは実際に医学部に入って勉強してみなければ分からないことも多い。しかし、目的意識をきちんと持って医学部に入ってくる者と、そうでないものとの間では「真剣度」や「努力の質」に差が出てくるだろうと面接官は思っている。「もし君の希望する科になれなかったらどうするか」という質問もあるが、その質問が出来るのは少なくとも相手が明確な目的意識を持っているからである。きちんと目的意識を持っているなら「そうならないように最大限の努力はするが、他の科であっても自分のやりたいことに繋がってくるのであれば全力でその科の仕事に従事したい」と答えればよい。その時に、目的意識がある者とそうでない者とでは「答えの温度」が違ってくる。そしてその温度差は、おそらく面接官に見抜かれる。面接官は経験豊富な大人である、ということを十分わきまえて、事前の準備を怠りなくやっておくことが大切なのである。
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