「医師の志望理由」として、私が「禁忌事項」として考えているものを1つ挙げる。それは「テレビや講演会等で国境無き医師団等の活動を知って感動し、自分も将来は海外の恵まれない地域や戦闘地域で医師として貢献したい」というモノである。理由は、国内で地域医療の最前線で日々多くの患者と向き合っている面接官(医師)が、最初から国内に関心を持たないかのように語る面接対象者を快く思うはずがないからである。自分の目の前で苦しんでいる人を無視して、遠くで困っている人を助けようとする心理に「ヒロイズム(自己英雄視)」と「ナルシシズム(自己陶酔傾向)」、そして「エゴイズム(利己主義傾向)」を見てしまう、と言ってもいい。確かに海外の貧困地域や戦闘地域で医療に従事しようとする人々は、その使命感とともに大いに尊敬すべきである。しかしそうした人々が、自分の足元である「日本」「自己の居住地域」のことをないがしろにしているわけではない。彼らは日本でやるべきことをやり(そしてそれが出来るほどの技量と知識と経験を持ち)、その上でより大きな志を持って海外へと赴いているのである。
一方で、これから医学部へ行こうとしている人間は、まだ技量も、知識も、経験も持たない、目の前の医療の現状も分からない「ヒヨッコ」である。その「ヒヨッコ」が、自分の役割がまるで海外の恵まれない人々を助けることであるかのように「カッコイイ」ことを言えば、地域医療で汗水流している目の前の面接官は面白くないだろう。そしてこの生徒が医学部に入ったら、地域医療の「ドサ回り」のような仕事は、決して真面目にやらないだろう、と考えるだろうと推測される。ましてや、私立大学医学部の大半は、1次試験と2次試験の間が離れているところが多い。面接官は当然1次試験の点数を知っているはずである。1次試験の点数が格段に良い受験生なら、多少大きなことを言っても良いだろうが、ボーダーラインのあたりをうろついている受験生が「口だけ大きい話」をするならば、面接官にしてみれば「その前にやることをきちんとやろうよ」と思われるのが関の山である。目の前にあることを大切にすること。それは医療に限らず、人生のあらゆる局面において大事にしなければならないことである。海外志向の話は、面接官から質問があれば語ってもよいが、受験生が自ら「医師の志望理由」として語ることは厳に慎むべきである。
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