FC2ブログ

(番外):藤田保健衛生大学医学部小論文の廃止について

 藤田保健衛生大学は、2015年度入試から、これまで2次試験の科目であった「小論文」「個人面接」のうち、「小論文」を廃止することを決定した。これまで藤田保健衛生大学は、60分で600字から800字を書かせる課題文型の小論文を学科試験として課していた。得点・評価に関しては明示されていないが、ある程度重視されていたのではないかと思われる。課題文は秀逸なエッセイを主とし、医療人としての問題意識や自覚を確認するような設問が課されていた。数ある私立医学部の小論文の中でも比較的良問と言えるものであり、授業の際にも取りあげることが多かった。
 その「小論文」が突如廃止となったことは、医進系予備校業界の中でも多少の驚きをもって受け止められたことであろう。そしてこの廃止の動きが、他の私立大(医学部)にも多少の影響を与えるのではないか、と分析する業者もぽつぽつと出てきている。それは医学部入試における「小論文」の意義や役割について、実はさほどないのではないか、という仮定の下に、藤田保健衛生大学の決定に追随する大学が、今後増加するのではないか、という予想を行っているのだろうと思われる。
 何かを新しく始めたり、廃止したりする、という現象の背後には、それ相応の理由がある。藤田保健衛生大学は小論文を廃止した理由をホームページ上で明示してはいないので、現時点では廃止の経緯を明確な文書の形で確認することはできない。だが、同校の『事業計画書』を読んでみると、これが理由なのではないか、と思われる記述を見つけたので、以下に引用してみる。
 「(前略)医学部入学後に留年を繰り返す学生が少数ながらみられる。医学部のアドミッションポリシーを堅持するため面接方法の改善に着手したので、その検証を行う。(後略)」
 つまり医療人として適切な人材(意欲的に学習することも含む)を、小論文や面接を通して選別し、入学させたにもかかわらず、そうした学生が何故か留年する、ということは、「小論文」が適切な学生の選別方法として機能していない、ということを意味するので、「小論文」を廃止し、「個人面接」を重視する、という試みによって、より適切な人材を選別することが可能かどうかを検証する、ということなのだろう。実際、「小論文」はテンプレート化が進んでおり、受験者本人の資質とは関係なく妥当な解答を書く、ということは可能である。こうしたことが常態化すれば、確かに「小論文」は適切な人材を選別する試験としては、ほとんど機能しなくなるのは当たり前である。その意味で藤田保健衛生大学の判断は妥当である、と私には思える。
 しかし一方で、これまで学科試験として「小論文」を課していなかった大学が「小論文」を新設したり、一度「小論文」を廃止した大学が「小論文」を復活させたりしている、という事実もある。これはどういうことなのだろう。
 私はこう思う。「学生が留年する、あるいは意欲的な学生が減少する」という事実をどう捉えるか、によって「小論文」が必要である、という結論を出すこともあるし、「小論文」が不要である、という結論を出すこともあるのだ、ということではないか。つまりどの大学も「学生の質の低下」という動かしがたい事実を何とかしたいのである。「質」とは「人間性」のことなのだから、もし「小論文」が「人間性」判別の物差しとなり得ると考えれば「小論文」を課すであろうし、なり得ないと考えれば「小論文」は課さない。藤田保健衛生大学は物差しとなり得ない(なり得なかった)と判断したのである。
 だが私は、「小論文」を廃止することによって学生の質が向上することはあまり期待できないだろう、と思っている。今回藤田保健衛生大学は「小論文」の廃止と引き換えに、英語・数学の配点を倍増させている。これは「英数の点数が高い=きちんと勉強している、もしくは地頭が良い=大学に入っても勉強する」という発想のもとでの決断である。地頭が良く、きちんと勉強する習性がついていれば、大学に入っても留年することはないし、医師国家試験の合格率も今まで以上に向上するだろう。しかし「学力・学習意欲の向上=学生の質の向上」なのか、という大問題がある。先ほど「質」とは「人間性」のことだ、と述べたが、私は留年率の減少が学生の人間性の向上だとは考えていない。
 医学部生は、将来「医師」になる。その意味で「学生の質」と「医師の質」とは直結する。医師の質の良し悪しは「勉強ができるかどうか、留年しないかどうか」によって決まるのではなく、患者と対面し、治療を行う医療の現場において、患者によって評価されるものだと思っている。そして本来、「小論文」はそういう視野のもとに「医療人の卵」を買うことを目的として行われるべきものだ、と考えている。そして卵をきちんと育てる、ということは「良い医師を育てる」ということであり、「留年させない」ということとは別のことである。「留年しない=良い医師になる」というのが完全に相関関係にあるのであれば、藤田保健衛生大学で「留年していない」大半の学生は、みな「良い医師」になっているはずである。果たして実際にそうであるかどうかは患者に聞いてみなければわからないが、少なくとも藤田保健衛生大学の方針は、こうした価値観に基づくものであろう。
 「小論文」廃止の流れが他の大学に波及するかどうかは、他の大学がこうした価値観のもとに「小論文」を課しているかどうかによるだろう、と私は思う。おそらく一部の大学では追随があるだろう。だがそうでない大学の方が多いのではないか、と私は考えている。そして「小論文」を廃止した藤田保健衛生大学でも、おそらく3年後、5年後にはこの試みの効果を確認できるようになる。そして6割程度の確率で「小論文」は復活することになるだろう、と予想している。だたしその際には、これまで以上に「質」の選定基準についてのより高い自覚と、それを反映した形での問題作成能力が必須となることは間違いない。そこまでの手間と労力を惜しまない、優秀な問題の作り手が、藤田保健衛生大学に残ってくれていることを期待したい。
関連記事

コメント

コメント(0)
コメント投稿
非公開コメント

プロフィール

玄武庵

Author:玄武庵
予備校講師をしながら旺文社(入試問題正解)・教学社(赤本)・Z会(実戦模試)等で作問・解答・解説等の仕事をしています。小論文は自分の頭で考えて書くことが一番大事ですが、その際の参考にしてもらえるとうれしいです。頑張ってください。(※コンテンツはすべて無料です)

カテゴリ

FC2カウンター